はじめに
世界的に有名な宝飾品および銀製品のブランド、ティファニーが1837年から使用している色、ティファニー・ブルー(TIFFANY BLUE/TIFFANY BLUE BOX 図1)は商標登録されていることをご存知だろうか。
ヴィクトリア朝のイギリスでは、土地や資産を記録する重要な台帳の表紙に、小鳥「こまどり」の卵のスカイブルーがよく使われており、大切なものを表す色だったそうである。創設者のチャールズ・ルイス・ティファニーが、この青を自社製品に添えることを決めたという。
では、登録商標のような「知的財産権」とは何だろうか?答えは「知的活動によって生じた無形の(形のない)財産権」である。ここでは、まだ一般的によく知られていない知的財産権について、基本的な内容をご紹介する。
産業財産権と著作権1)
「知的財産権」は「知恵の財産権」を表す総称のことで、実際に技術や表現などを保護するのはその対象(技術か、デザインか、マークか、著作物か)によって、それぞれ別の法律で保護される。「知的財産権」と「特許」は、共に「知的活動によって生じた無形の(形のない)財産権」だが、「知的財産(所有)権=特許」ではない。
両者の大まかな関係は以下ようになる。大きな括りは「産業財産権」としてはさらに大まかに4つに分類される。技術的な発明、考案を保護する「特許」、実用新案、産業上のデザインを保護する「意匠」、商品・サービスのネーミングやマークを保護する「商標」の4種である。
さらに図2に示すように「産業財産権」とは別に「著作権」は、著作物を保護するもので自動的に発生しそれを創作した人に権利が与えられる。
ここでいう著作物はCD-ROM、録画、録音、放送、演劇、映画なども含まれる。「著作権」で発明・技術を守れると思われている方は、大きな間違いである。著作権法では著作物とは「思想または感情を創作的に表現したものであって文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」となっている。これで分かるように、発明や技術は「著作権」の保護対象外である。
発明をして、自分の技術を守ろうと思えば、そのためには特許出願をしなければならない。「特許」等の工業所有権とのもっとも大きな違いは、工業所有権は登録して初めて権利が発生するのに対して、「著作権」は著作物を創作した時点で自動的に権利が発生し、以後、原則として著作者の死後50年間保護されるという点である。よって「著作権」については、権利を得るための出願・登録などの手続きの特別な必要はない。「著作権」の所管官庁は特許庁でなく文化庁となる。
産業財産権
まず「特許」を簡単に説明すると、「発明をした人に対して、その技術を公開してもらい、その代償として一定の期間、一定の条件下でその技術に対しての独占権を与える」という制度である。発明者が苦労して研究開発した成果に一定の法的保護を与えることによって、発明を奨励し、産業の発達に寄与しようというのがその目的である。しかし、一定期間とはいえ、製造・販売などの独占権を与えるということはとても大きな権利なので、その審査は慎重に行われる。何か新しいアイデアを思いついて特許出願をしたら、全て「特許」になるのかといえば、答えはノーである。日本の法律では「特許を受けることができる発明」について7つの条件が定められている(図3)。この条件を1つでもクリアできなければ、その出願は「特許」にならない。
次に「実用新案」は同様に技術的工夫を保護するものである。「物品の形状、構造又は組合せ」に係る考案を保護するもので、特許ほどではない小発明を保護する。製造方法では「実用新案」を取ることはできない。「実用新案」は、「無審査登録制」である。これは出願された考案の技術内容についての審査を行わずに登録番号を付与するというもので、権利期間は平成17年4月1日以降の出願については出願日から10年間になった。
無審査で登録されるので、実際には過去に同じような技術が特許又は実用新案権として第三者の権利となっていることも有り得る。そのため、「実用新案技術評価書」を請求しないと、権利の有効性は判断できない。権利を行使(権利侵害への警告をするなど)する場合にはこの「実用新案技術評価書」の提示が義務付けられている。なお、平成17年4月1日以降の出願は、出願から3年以内であれば、権利設定登録後であっても特許出願に変更できるようになった。
保護される「意匠」とは、工業的に利用可能な物品(あるいは物品の一部)の形状や模様、色彩などに関する「デザイン」である。「意匠」を取得すると、そのデザインに関して製造・販売する独占権を与えられる。例えば化粧品容器キャップなどのように、部品であっても独立して取引の対象となるものであれば、完成品と同じように1物品として取り扱われ、意匠登録の対象とされる。「意匠」の出願をすると、審査官による審査が行われる。審査の際には特許と同様に、新しいかどうか、容易に考えられないかどうか、などについて審査される。審査の結果、登録査定となった場合、登録料の納付後に設定登録となり、権利期間は設定登録の日から15年間となっている。
「商標」で保護されるものは、商品やサービスに関してつけられている名称やマークである。ユニークな言葉や図形など、自己の商品と他者の商品を識別するためにつけられるものが「商標」である。出願の際にその商標を使用する商品やサービスが属する区分を指定しなければならない。区分は一つの「商標」について複数指定することもできる。出願をすると、審査官による審査が行われ、拒絶理由が見つからなければ登録査定が出される。その場合、登録料を納付後に設定登録される。権利期間は登録の日から10年だが、特許庁へ申請することにより更新が何回でも可能なので、更新し続ければ半永久的に権利を維持できる。以上、これまでの内容を表1にまとめる。
島田邦男
琉球ボーテ(株) 代表取締役
1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数
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