はじめに
「エコノミー」すなわち経済を重視する考えと、「エコロジー」すなわち環境を重視する考えは対立すると考えてしまう。そもそも「エコノミー」も「エコロジー」も"家"や"家庭"を意味するギリシャ語の「オイコス(OIKOS)」を語源としている。経済も環境も根っこは同じである。自分一人の「エゴ(利己主義)」を第一に生きるのではなく、自他共の「エコ(環境)」を大切に生きる―こう変革していくべき時が待ったなしで来ているようである。そこで今回は容器、原料、処方の視点から「エコ」を取り上げることにする。
【容器】
地球温暖化問題に対する市民の関心が高まる中、化粧品容器においてもライフサイクルにおけるCO2排出量を削減することが重要である。原料が植物由来プラスチックであればその成長過程において大気中のCO2を吸収しており、そのプラスチックから得られた容器を焼却廃棄してもトータルで大気中にCO2が排出されない「グリーンイノベーション」になる。
資生堂は2011年9月中旬より、ブラスケン社(ブラジル)と共同開発したサトウキビ由来のポリエチレン(以下PE)容器1)をヘアケアブランド「スーパーマイルド」のシャンプーなどに採用した(図1)。
2020年度までに国内で扱っているPE容器の70%以上を植物由来に切り替える方針で、これにより同年度の国内製造拠点でのCO2排出量を2009年度比で20%削減することをめざしているという。
花王も2012年1月24日よりシャンプー・リンスの主力商品「メリット」の詰替え容器にサトウキビ由来のPE容器を採用すると発表した。新開発の包装容器は全重量に対して約10%を植物由来の素材に置き換える。あわせて、薄肉化で樹脂量を約7%減らし、包装材料由来のCO2排出量を従来比で約12%削減する。使い捨て容器削減への関心も高く、資生堂は2020年度までに全商品に詰替用を用意し、使い捨てを事実上全廃する。花王は主力の液体洗剤などの詰替比率が80%に達しており、今後は化粧品にも広げる。
【原料】
スーパーマーケットで販売されている家庭用品の約7割が、パームオイルやその派生物を含んでいるといわれている。アブラヤシから効率的に採取できるパームオイル(図2)は、大豆や菜種などより10倍以上の生産性を持ち、栽培に必要な土地は少なく済むからである。
世界の87%を占める主要な生産国がインドネシアとマレーシアだが、今後は開発途上国で栽培がさらに拡大しそうだ。しかし生物多様性の側面から、原生林が広がっていた森で開発が進めば野生生物が動き回るための回廊はなくなり、洪水が起きたらアブラヤシ農園そのものも破壊される。消費者が嗜好する植物由来が正しいとは言えなくなる。
自然環境を保全しながら生産物の需要を充たし、さらに地域住民の権利を尊重しながらアブラヤシ栽培とパームオイルの生産をするためには、どうすればいいのか? この問題に取り組むため2003年に「持続可能なパームオイルの円卓会議(以下RSPO)」が設立された。
RSPOは複数のステークホルダーが参加して、持続可能なアブラヤシ製品の発展と利用を国レベルではなく世界基準で協議する独立した認証機関である。詳細な説明は省くが、土地所有者や農場労働者、そして自作農家の権利を尊重し、新しいアブラヤシ農園を作るために高い保護価値のある原生林を犠牲にしないということを決めている。
家庭用洗剤サラヤは、このパームオイルを発酵して得たバイオ・サーファクタントを配合したRSPO認証製品「ヤシノミ洗たくパウダーネオ」の通信販売を2010年に開始した。さらに2012年3月に新製品を上市している。花王も2015年までにRSPOで認証されたパームオイルのみを使用することを目指している。
島田邦男
琉球ボーテ(株) 代表取締役
1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数
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