【C&T2016年4月号7面にて掲載】
はじめに
一般に油は「肥満のもと」で、不健康と思ってしまう方が多いと思う。化粧品も「油っぽい」 「ベタベタ」はネガティブな表現だ。しかし、私たちの思考や行動の司令塔である脳の約7割は脂質でできている。体は約60兆個の細胞ででき、その細胞をコーティングし、きちんと働けるようにしている主な成分も油、つまり脂肪酸である。
理化学辞典による脂質の定義は「水に溶けにくく有機溶媒に溶けやすい、生体に存在する『あぶら』状の物質の総称」と記載されている。ベジタリアンが、必須脂肪酸(オメガ3)が不足して体に湿疹ができ体調を崩すこともあり、逆に「健康のもと」でもある。
化粧品は脂肪酸を原料としている。石鹸やクリームなどの乳化製品、口紅などメーク等様々な製品に配合しているものと同じ油が、私たちとどう関わってきたのか、何が問題なのかを考えてみたい。
油の歴史1)
人間が最初に使い始めた油は、動物油脂だったといわれている。旧石器時代の後期(1万~3万年前)、クロマニヨン人の壁画を残した遺跡などには、動物の脂肪を燃やした跡のある皿が残されている2)。古代の人々は狩猟により暮らしていたため、その脂肪を溶かして明かりとして使ったと思われている(図1)。
(図1 旧石器時代の油の使用2))
人類の歴史上、起源がもっとも古いとされるオリーブオイルとごま油の起源は、両方ともアフリカからエジプトである。オリーブは、紀元前3000年代にはエジプトを中心とする中近東世界で栽培され、やがてそれがギリシャなどの地中海へと伝わった。
主に食用として一般的になったのは地中海に渡ってからで、エジプトでは医薬品、灯り用、ミイラ作りの香料の主原料としてオリーブオイルやアーモンド油を使用した記録が残っている。また、ギリシャ神話や旧約聖書にもオリーブの実と油について書かれている。
ごま油も古代エジプトで利用されている記述があり、アフリカから種子を取り寄せナイル川流域で栽培していたらしい。クレオパトラが香料や化粧品に使用していたという逸話が残っている。エジプトからインド、中国に渡り、古代インドでは仏教の教えで肉食が禁じられていたため、ごまは貴重な栄養源だった。また、インドの伝統療法アーユルヴェーダのオイルマッサージにも古くから使用されていた。
日本では縄文時代にごまやエゴマの栽培がされていた記録がある。また、ハシバミの実(ヘーゼルナッツ)から摂った油の記述が日本書紀に出ている。大化の改新(645年)の頃には、税金のかわりに油を納める制度があり、エゴマ油やひまし油などが現物税として朝廷に献上された。
その後、菜種を利用した搾油も盛んになり、全国に油の製法が広まった。油を食用としたのは、奈良時代の寺院での精進料理に、野菜ばかりでは脂肪分が不足するために油で揚げた食物を摂取するようになったのが始まりと言われている。安土桃山時代にはてんぷらが登場したが、これは主に豆腐類を油で揚げたもので、南蛮料理という言葉が生まれ『南蛮漬け』のルーツとして言葉が残っている。
続きを読むには無料会員登録が必要です
- PC、スマホからいつでも
- WEBでかんたん記事検索
- 化粧品業界の優良記事を
お届け