【C&T2016年7月号8面にて掲載】
はじめに
世界の広告専門のジャーナリストが審査員を務める、「Epica Awards」を昨年受賞した資生堂CMの『High School Girl? メーク女子高生のヒミツ』は、誰もがまんまと騙された。女子高の放課後の教室で、カメラに謎めいた視線を投げかける美しい女子高生たちに思わず“おーっ可愛い!”。実は教室にいた生徒は、全員、高校生も先生も男性だった。メークのヒミツが衝撃の結末で、Web公開から2か月で800万回突破の再生回数になった(図1)。
男性がこんなにキレイになるなんて「ずるい」と思いたくなった女性もいるかもしれない。しかしもちろん、美しい男性を嫌いな女性はいない。男性用化粧品で肌やニオイ対策の新商品投入の動きが相次いでいる。周囲に不快感を与えないよう気を使う男性も増えている。経済産業省の調査によると、男性のスキンケア化粧品の出荷額は2004年の130億円が14年には約1.7倍の222億円になった(図2)。
そこで今回は、男性の化粧について考えてみる。
男性の化粧史2)
男性に化粧はとんでもない! っていう諸氏には、まず過去を振り返ってもらおう。日本における化粧の起源は、1800年ほど昔の古墳時代で、大陸から伝わる顔や身体を赤く塗る“赤塗り”だった。ファッションというよりは、悪魔から身を守るという目的があり、男性の間で行われていたのを次第に女性も真似するようになったようだ。つまり、化粧のルーツはもともとは男性である。
その後、絵巻物などで平安貴族の姿を垣間見ることができるが、男性も女性も自然の眉を抜き、顔面を白く塗って、紅をさし、鉄漿(おはぐろ)まで染めて眉墨で眉を描いている。歌舞伎にもなっている“源平の合戦”の一ノ谷の合戦での平敦盛の最期、薄化粧の若武者・敦盛があまりにも美男子なので、源氏方の熊谷次郎直実が首をとるのをためらった話がある(図3)。
さらに江戸後期には、一般庶民の男たちが銭湯で脱毛に励みツルツル肌になるまで身体を磨いていた。
実は男性の化粧に終止符が打たれたのは、近代化を境に明治天皇が平安時代から続いていた男の化粧をやめてからである。ヒゲをたくわえた天皇の“御真影”とともに、富国強兵で“男は男らしく”という性差が強調されるようになり、男の化粧がタブー視された。つまり、男性が化粧しなくなったのはほんの100年ほど前になる。
男性の化粧史3)
45歳以上の中年男性の中には、若い頃にバブルを謳歌し、未だモテや見栄を意識して消費意欲旺盛に美活をする「綺麗おやじ」もいる。しかし、ケア実施率が減り「中年オヤジ」化する人も増えてくるので、残念ながら化粧世代ではない。男性美容マーケット、ケア実施率の高い世代はそれ以下になる。
25~34歳の「綺麗男(きれお)」世代(清潔男子世代)は化粧世代である。90年代後半に起こったビジュアル系バンドやカリスマ店員&美容師、ギャル男などのブームを多感な時期に体験している。その後、男性化粧品・スキンケア市場が急拡大して商品も増え、臆することなく美容を当たり前のように生活に取り込んできた。
35~44歳は、人口が多く常に競争にさらされてきた団塊Jr.世代だ。多感な時期に、男性ファッション誌(「MEN’S NON-NO」「FINEBOYS」等)や男性コスメブランド(「UNO」「ギャツビー」)等が人気となったこともあり、美容に対する意識・関心は比較的高いらしい。
また、職場の目がある。周囲には美容を当たり前に嗜む若手の「綺麗男」世代と、男性より約1.3~1.5倍厳しいチェックの目を持つという女性も増加している。なでしこジャパンの佐々木前監督も鼻毛カッターを愛用していた。職場における「身だしなみ」=美活は、マイナスをゼロにし、周囲とうまくやっていくために必要な「ビジネススキル」とも言える。周囲の多様な目を意識し、職場で生き抜く(サバイバル)ために美活を行うサラリーマンを「サバ美ーマン」と呼ぶ。
また、ケア実施率は豊かさとも相関する。30~50代の年収でみると、600万円未満と600万円以上とで分けて見た場合の「日常的にスキンケアをしている」割合は、600万円以上だと40.4%と、600万円未満の29.2%を大きく上回っている。中でも30代の差は顕著で、年収800万円以上の80.0%が日常的にスキンケアをしているのに対し、年収400万円未満の層は40.0%という結果になる4)(表1)。
続きを読むには無料会員登録が必要です
- PC、スマホからいつでも
- WEBでかんたん記事検索
- 化粧品業界の優良記事を
お届け