第10回 「小売業から流通業へ」(バローホールディングス 田代正美会長兼社長)

【週刊粧業2020年2月3日号10面にて掲載】

 バローホールディングスは、スーパーマーケットを中心に、ドラッグストア、ホームセンター、ペットショップ、さらにスポーツクラブなどいくつもの業態を展開している。対象とする商勢圏は、最近でこそ名古屋市内など都市部への出店も増えているが、基本はあくまでローカル立地である。

 「いくつもの競合店を通り抜けて来店してもらうためには、強力なカテゴリーを集積させたスーパーマーケットが必要です。人口が増えて経済が成長期にあれば、商圏を隣接させたドミナント出店で、そのエリアのシェアを高める戦略が功を奏します。だが人口が減少し、経済も安定成長期に入った今は、こうした小商圏を隣接させるドミナント出店は逆に自社競合に陥り、個店の売上も減少します。これを打破するには、生鮮や惣菜を思い切って強化したカテゴリーキラー的なスーパーマーケットが生き残るために必要となります。商圏も当然、これまでよりも広くなります」

 いまバローはスーパーマーケットを新店、改装店を通じて、こうした強力なカテゴリー集積型に転換しつつある。

 バローは、スーパーマーケット業界で最も進んだ自社物流ネットワーク体制を構築している。ローカル立地であることから、卸物流に頼らず、自社物流をあくまで追求してきた。

 SCを開発してもテナントが思うように誘致できない。そこでドラッグストアやホームセンターを自社で展開せざるを得なかった。あのウォルマートの創業当初から発展期を彷彿させる。

 バローの前身は、故 伊藤喜美 前会長が創業した「主婦の店 恵那店」(岐阜県恵那市)である。伊藤前会長は、あの有名な「陸軍中野学校」の出身である。

 神宮外苑で雨のなか挙行された学徒出陣式の記録映画を見る機会があるが、あの一番先頭を歩く、向かって右端の眼鏡をかけた青年が伊藤さんの若き日の姿である。

 田代正美会長兼社長は、大手精密機器メーカーの若手有望社員だったが、義父である伊藤前会長から言わば三顧の礼で同社に迎えられた。驚くのは、当時の上司だった人も含めてかなりの人数が同時にその会社からバローに入社した。

 田代社長をはじめとする彼らがバロー成長発展の原動力となった。これまでの小売業から新しい流通業への脱皮が本格的にスタートする。

 「売買差益に頼る単なる小売業にはいずれ限界が来ます。製、配、販をトータルで手掛ける新しい流通業こそが当社のめざす方向です」

 この基本方針に沿って同社は、惣菜、ベーカリー、青果など次々と製造子会社を設立して軌道に乗せている。また精肉のプロセスセンターは、全店をカバーしている。

 バローホールディングスはさらに、アークス(横山清社長)、リテイルパートナーズ(田中康男社長)と資本業務提携を結び、「新日本スーパーマーケット同盟」を結成して、新しい業界再編成の動きに大きな一石を投じた。既に商品の共同開発など具体的な戦略が動き出している。
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加藤英夫

週刊粧業 顧問(週刊粧業 流通ジャーナル 前会長)

私が週刊粧業の子会社「流通ジャーナル」に入社したのは今からちょうど50年前の昭和44年(1969年)6月だった。この間、国内はもちろんアメリカ・ヨーロッパ・アジアにも頻繁に足を運び、経営トップと膝を交えて語り合ってきた。これまでの国内外の小売経営トップとの交流の中で私なりに感じた彼らの経営に対する真摯な考え方やその生きざまを連載の形で紹介したい。

https://www.syogyo.jp/

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