第12回 「芸術の都 パリ」(ロレアル パトリック ラバン副社長)

【週刊粧業2020年2月17日号5面にて掲載】

 今から20年余り前、週刊粧業の創刊45周年記念特集で、世界最大の化粧品メーカー「ロレアル」を取材した。パリ北部郊外のグリシーにあるロレアル本社で、コンシューマー事業部門を統括するパトリック ラバン副社長にインタビューした。

 ラバン副社長は、最高経営責任者のリンゼー オーエン ジョーンズ会長と同じく当時50歳代前半で、濃いブルーのワイシャツにお洒落で上品なブレザーを着た姿は実にスマートだった。

 「日本の女性についてどう思われますか」

 「日本の女性は、世界中の美しいものに憧れる国民性を持っています。何故なら、日本は極めて芸術的な国だからです。このほど、カンヌ映画祭でカメラ・ドールを受賞したナオミ・カワセ(河瀬直美)の作品も素晴らしいですね。この若い日本人の女性監督は、フランスでもいま大人気ですよ」

 河瀬監督はいまでこそ有名だが、当時は日本でもそれほど名を知られてはいなかった。さすが芸術の都 パリである。

 「ロレアルグループとして、21世紀に向けてどのような基本戦略を考えておられますか」

 「グローバルに見ますと、コスメティック市場はますます大きくなるでしょう。だが競争もさらに激しくなります。グローバル競争に負けないための最も重要な戦略は、研究開発に積極的に投資していくことです。ロレアルグループの研究開発費は売上高の5%に達していますし、4000人以上の社員が研究開発に携わっています」

 オーエン ジョーンズ会長との絶妙なコンビで、フランスのランコム、ランバン、アメリカのレッドケン、ヘレナルビンスタインに続き、メイベリンとそのM&A戦略は止まるところを知らぬ勢いだった。

 ラバン副社長はインタビューの最後にこう付け加えた。

 「私の好きな映画の一つがアキラ クロサワ(黒澤明監督)の名作『蜘蛛の巣城』なのです」

 ロレアルが世界各国に60カ所以上持つという工場の中で当時最新鋭工場の一つだったパリ郊外の「オルネー ラ バルビエール工場」を取材した。

 敷地面積9000坪という広大なもので、中央の人口池を中心に、花びらのように3つの工場が円形で囲んでいる。コスメチック・スキンケア、ローション・ヘアケア、ヘアカラーと3つに分かれた工場の1つ1つの延床面積は1800坪の規模である。

 マルタン モッテ工場長はまだ34歳の若さだった。工科系大学を卒業して24歳でロレアルに入社したという。

 「この工場では、トヨタのカンバン方式を導入しています。ジャストインタイムを追求しており、商品の箱、容器、キャップなどは発注から1日で納入されます」

 なおロレアルの2018年度の売上高は3.5%増の269億ユーロ(約3兆2200億円)、営業利益は5.3%増の48億ユーロ(同5760億円)の増収増益と依然好調である。
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加藤英夫

週刊粧業 顧問(週刊粧業 流通ジャーナル 前会長)

私が週刊粧業の子会社「流通ジャーナル」に入社したのは今からちょうど50年前の昭和44年(1969年)6月だった。この間、国内はもちろんアメリカ・ヨーロッパ・アジアにも頻繁に足を運び、経営トップと膝を交えて語り合ってきた。これまでの国内外の小売経営トップとの交流の中で私なりに感じた彼らの経営に対する真摯な考え方やその生きざまを連載の形で紹介したい。

https://www.syogyo.jp/

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