【週刊粧業2017年01月16日号11面にて掲載】
前回、化粧品企業のR&Dにおいて、感性や情緒的価値に関する研究が活発になっていることをご紹介しました。今回のコラムではそれと少し関連して、近年R&D部門と消費者とのコミュニケーションが活発化している点について取り上げたいと思います。
■技術か、消費者か?
一般に商品開発は、企業の意向や技術を優先する『プロダクトアウト型』と、消費者ニーズを徹底的にリサーチし、それに応える製品を市場に投入する『マーケットイン型』の2つに大別されます。
近年、化粧品市場では「サイエンスコスメ」が話題となり、独自の画期的な技術や成分を採用したプロダクトアウト型の商品が次々と登場しています。しかし、今日のように市場が成熟化し消費者ニーズが多様化するなかでは、マーケットイン型の発想が必要不可欠であるとして、取り組みを強化する企業が増えています。
例えばコーセーは、従来のプロダクトアウト型の製品開発では、急速に変化する消費者の嗜好/志向性に十分に対応しきれないとして、2014年から「アイディアボックス」というサイトを本格的に運営しています。そして同サイトを通じて消費者ニーズを拾い上げ、それを研究所の技術力や発想力と組み合わせることで、流行に合わせたヒット商品を生み出そうとしています。
また、ノエビアは2015年に「東京研究所」を開設。一般ユーザーとの座談会や試作品体験会などを積極的に開催することで、顧客満足度の高い製品・サービスの提供を目指しています。
さらに最近では、資生堂が「グローバルイノベーションセンター」の設立を進めていますが、そのコンセプトのひとつが「都市型オープンラボ」で、一般消費者と研究員が気軽に交流を楽しめるスペースを設ける予定です。
■R&Dの見える化
また、販売(マーケティング)面でもR&D部門が消費者とのコミュニケーションを図る動きがみられるようになっています。例えば、少し以前の富士フイルムの「アスタリフト」や資生堂の「専科」のTVCMでは、研究員自らが出演し、自社の技術力をアピールしていたことはまだまだ記憶に新しいところです。
また最近では、花王が「iP」をアピールするため、研究員自らが街頭イベントに立って消費者に直接商品の説明を行っています。
このように近年、主要各社のR&D部門と消費者の距離はますます近くなっており、プロダクトアウトとマーケットインを二項対立でとらえることは不可能になっています。
どんな優れた技術や成分も、消費者ニーズを踏まえたものでなければ独りよがりになりますし、それがユーザーに正しく理解されなければ無意味なものとなります。したがって、R&D部門と消費者との持続的で双方向的な対話こそが、ヒット商品を生み出す原動力になるといえるでしょう。