【週刊粧業2017年2月13日号11面にて掲載】
近年、医療福祉分野などで『化粧療法』に対する関心が高まっています。
化粧療法とは、「ハンドケア、フェイシャルケア、メイクアップなどのスキンシップを通してリラックスしながら若さや美しさを取り戻し、自信や満足感、自己肯定感などを手にすることを目的とした生理的・心理的ケア」(日本化粧療法協会)を指します。
その具体的な効果として、化粧療法の普及に長年取り組んでいる資生堂では、①気持ちが前向きになる、②脳が活性化する、③身体機能がアップする、④唾液の分泌がアップする、などを挙げています。
その歴史は古く、資生堂では1956年に戦禍による火傷などのケロイドに悩む人に対して「スポッツカバー」を発売したことが始まりです。
同社では現在、対象範囲をアザや濃いシミ、白斑、凹凸、がん治療による外見の変化などに広げ、肌に深い悩みを持つ人に対して化粧による解決方法を無料でアドバイスしています。
■がん治療に伴うケア
なかでも、日本人の2人に1人は生涯のうちに罹患するといわれるがんにおける化粧療法のニーズは年々高まりをみせています。がん患者にとって、治療に伴う脱毛や肌のくすみといった外見の変化は、性別を問わず生活や仕事に支障をきたすほどの切実な問題で、患者の98%が病院で外見のケアに関する情報を求めているといわれています。
こうした課題に対して、国立がん研究センター中央病院では、2013年からがん患者を支援する「アピアランス支援センター」を設置。皮膚科医や形成外科医、心理士、美容の専門家などがチームを組んで個別の助言やセミナーの開催などを行っています。資生堂でも2015年から、がん治療中のメイク方法をまとめた小冊子を全国の販売店や病院などで無料で配布しています。
■ブラインドメイク
化粧療法はこうした患者だけのものではありません。最近では視覚障がい者が鏡や介助なしでフルメイクできる技法を「ブラインドメイク」と呼び、それを支援しようという動きが広がり始めています。
視覚障がい者の中には、化粧自体をあきらめる人も少なくありませんでしたが、自分で化粧ができるようになることで自己肯定感や社会参加への意欲が高まり、QOLの向上につながることが報告されています。
■今後に向けて
化粧療法の歴史は長いとはいえ、まだ一部の企業や団体が取り組んでいるにすぎません。本格的な支援を行うためには、専門的な知識や技術を持った人材の育成が不可欠です。
また、超高齢社会を迎えるにあたり、多くの人が何らかの形で自身の病気や身体の不自由さと向き合うことになると思います。そのとき、化粧品に何が求められていて、何ができるか、その役割と可能性を考えてみてはいかがでしょうか。