第26回 パーソナルコスメ

【週刊粧業2018年03月26日号4面にて掲載】

 今回取り上げるキーワードは『パーソナルコスメ』です。

 パーソナルコスメとは、狭義では自分だけのために作られた専用の化粧品を指します。誰しも「自分に合った化粧品を使いたい」と思うものですが、その意味でパーソナルコスメは理想かつ究極の化粧品といえるかもしれません。

 特に近年は、化粧品の種類が多様化する一方で、クチコミサイトやSNSなどでさまざまな評価や選択肢が溢れる「情報過多」の時代でもあります。このため「何を選んだらいいのかわからない」「選ぶのが面倒くさい」という消費者は少なくなく、パーソナルコスメの需要が高まっているのかもしれません。

■多様化する提案

 しかし、実際に一人ひとりの肌に合わせた化粧品を作ることはロットやコストの点で非現実的です。そこで多くのメーカーでは、カウンセリング機器を通じて個々の肌状態を分析し、最適な化粧品を提案しています。

 代表的なのが、ポーラが手掛ける「アペックス」です。同ブランドは1989年以来、1000万件以上に及ぶ肌分析を行い、その結果に基づいて256万通りのスキンケアと3600通りのメイクアップの中から、個々に合わせたお手入れを提案しています。

 また、ファンケルでは独自の角層バイオマーカー解析を活用することで、現在の肌悩みだけでなく未来の肌ダメージリスクも同時にケアできることを謳っています。このほか、皮膚常在菌(美肌菌)に着目し、それを培養・凍結保管したうえで、必要な際に再び自身の肌に戻す方法を提案する企業もみられます。

 そして、今年最も注目の商品のひとつが、資生堂の「オプチューン」です。同商品は専用アプリを通じて、その日のメンタル(ストレス度)や肌状態(水分量や皮脂量)、外部環境(温湿度や紫外線量)などの情報を収集・測定し分析。

 独自のアルゴリズムで一人ひとりのその時々の肌状態に合わせて、3種類の美容液(抗乾燥・抗酸化・抗ストレス)と2種類の乳液(朝用・夜用)をカスタマイズし、専用のマシンから抽出するというものです。

 現在はテスト版での運用のため、今後価格や仕様が変更になる可能性はありますが、同商品は次の2つの点で非常に画期的です。

 ひとつは、従来のパーソナルコスメではあまりみられなかった、日々の肌状態や外部環境の変化に対応できる点です。

 もうひとつは、「カミソリと刃」型と呼ばれるビジネスモデル(マシン本体を安く提供する代わりに、化粧品を継続的に販売することで安定的な収益を上げる)につながる可能性を示唆していることです。

 つまり、一度顧客を取り込むことができれば、顧客からの継続的な購入が期待でき固定化につながります。化粧品では珍しいモデルという点でも、同社の今後の展開に注目したいと思います。
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松本 竜馬

TPCマーケティングリサーチ(株)マーケティングマネージャー

大阪大学大学院人間科学研究科博士課程修了。社会学(ジェンダー/セクシュアリティ論)を専攻した後、マーケティング調査や化粧品・美容業界に興味を持ち、2007年に総合企画センター大阪に入社。以来、一貫して化粧品・美容領域に特化した市場調査や消費者調査を多数手掛けているほか、化粧品企業や広告代理店などからのマーケティング相談への支援も行っている。

http://www.tpc-osaka.com/

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