第27回 スモールマス

【週刊粧業2018年04月23日号4面にて掲載】

 今回取り上げるキーワードは『スモールマス』です。

 スモールマスとは花王が提唱する概念・用語で、「マス市場よりも小さいが一定の規模を持つ市場」を指します。より具体的には、同じ嗜好性を持つ個と個が主にデジタルでつながり形成している小さな市場です。

 これは、市場を細分化しないですべての消費者を対象に、大量生産・大量販売・大量プロモーションを展開する『マス市場』と対比的に使用されます。

 同社によれば、近年の化粧品・トイレタリーのように成熟した業界では、マス市場が縮小する反面、スモールマス市場が数多く生まれ、存在感が増しています。

 実際、同社ではスモールマスと位置づける商品の売上がすでにマス商品を上回っているそうです。しかも、スモールマス商品のロイヤルティは高まる傾向にあるため、比較的高単価でも受け入れられやすく、利益率の向上につながっています。そのため、スモールマス市場の攻略が今後いっそう重要になるとみられています。

 では、スモールマスの背景にあるものとは何でしょうか?

 ひとつは市場の成熟化により、機能的なベネフィットだけでは他社との差別化が難しくなっていること。もうひとつは、消費者の意識や生活スタイルが多様化・細分化し、「マス」自体が縮小・消滅していることが挙げられます。

 これらを背景として、機能的にどんなに素晴らしい商品であっても、従来のTVCMのようにマス広告を大量に投下するだけでは消費者にリーチできず、簡単には売れなくなっています。

 そこで、スモールマス市場の攻略のカギになってくるのが、デジタルメディアを活用したコミュニケーションです。すなわち、SNSやウェブコンテンツなどを通じて、ターゲットが必要とする商品や情報を、ターゲットが望むタイミングで入手できるように環境を整えておくことです。

 そうすることで、消費者は得られた情報を自分事化し、それを共有・話題化することで情報が拡散していきます。

 さらには、企業やブランド・商品との間に共感を育み、最終的には「ファン」になってもらうことが目標です。

 もちろん、大勢の人に瞬時にリーチできるテレビ広告の役割が完全に終わったわけではありません。

 例えば、花王の「リセッシュ」では、ターゲットのテレビやデジタルメディアとの接触状況に応じて、TVCMと同じ動画やドキュメンタリー風動画、商品特長を漫画「北斗の拳」でゆるく可笑しく伝えるコンテンツなどを使い分けて展開しています。

 これにより、ターゲットリーチや商品認知、ブランドへの深い理解や共感、エンゲージメントを補完・醸成しています。

 このように、ターゲットやマーケティング目標に合わせてデジタルメディアとマス広告を使い分けていくことが重要といえます。
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松本 竜馬

TPCマーケティングリサーチ(株)マーケティングマネージャー

大阪大学大学院人間科学研究科博士課程修了。社会学(ジェンダー/セクシュアリティ論)を専攻した後、マーケティング調査や化粧品・美容業界に興味を持ち、2007年に総合企画センター大阪に入社。以来、一貫して化粧品・美容領域に特化した市場調査や消費者調査を多数手掛けているほか、化粧品企業や広告代理店などからのマーケティング相談への支援も行っている。

http://www.tpc-osaka.com/

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