第36回 違法ではなくいい方に

【C&T2018年10月号6面にて掲載】

はじめに

 毎日平均1700のカップルが結婚している。しかし残念ながら3組に1組が離婚している。そのためなのか、永遠の愛とは言わないけれど、今時の男子は恋愛に全く興味のない「絶食男子」が多いらしい。

 ではこれまでにいわれていた「草食男子」との違いは何だろうか? 回答は「草食系は恋愛に奥手なだけでまだマシだけど、絶食系はもはや女性に心を閉ざしている」ということになるのか。刹那的な変遷で誕生した新語は、正確な言葉の定義は判らないが、「多分そうかな」と思う曖昧な意味を探るしかない。

 同様に新しく販売する化粧品の広告で使う効能は、法規制の中で正しく表現されているだろうか。特にネットの中では氾濫している化粧品広告のきわどい表現が多い。

 今回は少し硬い話になるが、違法性のない薬事的に『正しい(いい方の)効能の範囲』を理解して頂くために述べる。

化粧品の訴求項目

 私たちが一般に販売、または使用している化粧品は、「人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、または皮膚もしくは毛髪を健やかに保つために使用される目的(薬事法第2条第3項)」である。

 実際に使用できる化粧品の効能は、旧厚生省の医薬局長通知1)から現在まで変更追加を経て表1に示す範囲が認められている。この表の効能は、ここにある言葉をそっくりそのまま使えと言っているわけでない。範囲を超えない言い換えは可能だが、超える言い換えは不可ということだ。

 この超える言い換えがわかりにくい。たとえば「(29)肌を柔らげる」は認められているので「肌が弾力を持てる」は可となる。それゆえ、如何にして範囲を超えない言い換えを表現するかポイントになる。

 反対にそのまま言葉を使用する場合もある。例えば、「(36)日やけを防ぐ」「(37)日やけによるシミ、ソバカスを防ぐ」については、紫外線吸収剤などUV防止を目的とした成分を含有している商品に限られる。

 例えば、保湿を目的とした成分自体にUV防止作用があるからといって、「日やけを防ぐ」かのような表現や標榜は不可となり、また、薬効としての日焼け防止効果も化粧品である以上標ぼうはできない。

 また、「日やけによるしみ、そばかすを防ぐ」という表現について、簡略化し、「しみ、そばかすを防ぐ」だけを標ぼうすることは不可となり、必ず「日やけによる」という文言が必要となる。

 明記しなければ薬事広告として違反となる。また、フォントサイズを小さくするなどの小細工も禁止され、「効能効果」の表現と同じ大きさや色で記載しなければならない。この表現を『しばり表現』と呼ぶ。

 同様に、「(56)乾燥による小ジワを目立たなくする」効能効果を表現する場合には、「乾燥による」と明記する必要がある。これも『しばり表現』である。「乾燥による小ジワ」の表現は、平成23年に追加された効能効果の表現であるため、適切な試験を行い、効果を確認することが求められている。

 具体的には、日本香粧品学会の「化粧品機能評価法ガイドライン」の「新規効能取得のための抗シワ製品評価ガイドライン」に基づく試験、又はそれと同等以上の適切な試験になる。

 1つの化粧品で複数の効能表現は可能だ。「オールインワン化粧水」のように、作用が異なる成分を配合して1つの化粧品として製造された化粧品には、独自のルールが存在する。

 このような化粧品の場合、①使用箇所(部位。例えば、皮膚、頭髪など)が同じで、②用法が大きくかけ離れているものであれば、その広告の中でそれぞれの効能効果を併記できる。つまりメイク用だがスキンケア的効能も可能だ。

 「体験談だから効能効果を書いても大丈夫だろう」という意見がある。しかし、体験談であっても、56項目に書かれていない効能効果の表現は禁止されている。それだけではなく、体験談の場合は効能効果が確実であるかの誤解を与えやすい。

医薬部外品と化粧品

 医薬部外品(以下、部外品)の効能を化粧品と混同していることはないだろうか。部外品は、口中清涼剤、薬用石鹸、薬用歯磨き類、腋臭防止剤、てんか粉類、育毛剤、脱毛剤、染毛剤・脱色剤、浴用剤、薬用化粧品、パーマネントウェーブ用剤(部外品のみ)などが指定されている。

 下記に示す部外品の製品のカテゴリーの中で、化粧品で表現できない間違いやすい表現を列記する。

【口中清涼剤・薬用石鹸・薬用歯みがき類】

 化粧品の口中清涼剤で口臭を防ぐマウスウォッシュのような製品で、「むし歯」「歯周病の予防」は言えない。石鹸や歯磨き類は「殺菌消毒」が不可で、「清浄する」までになる。

【脇臭防止剤】

 スキンスプレーのような化粧品で、「わきが」「皮膚汗臭」「ニオイや脇汗を防ぐ」となれば不可になる。

【てんか粉類】

 てんか粉類は「あせも」や「ただれ」などを防止する製品で、化粧品では洗顔料であれば、「あせもを防ぐ」は使用できるが、それ以外のクリーム類などは不可だ。化粧品で「ひげそり後の肌を整える」はいいが、「カミソリ負けを防ぐ」が部外品になる。

【育毛剤】

 育毛剤は部外品、養毛剤は化粧品に分類されることが多く、毛髪や頭皮への効果もそれぞれ異なる。化粧品は、「頭皮、毛髪をすこやかに保つ」「毛髪にはり、こしを与える」という表現までで、「育毛」という言葉は不可になる。

【脱毛剤】

 「裂毛、切毛、枝毛を防ぐ」はいいが、「脱毛」は化粧品で使用できない。

【染毛剤】

 「染毛剤」と「染毛料」とは「剤」と「料」で一字が違うだけだが、その違いを図1に示す。
化粧品としての半永久染毛料とは、例えば色が2~4週間持つヘアマニキュアのような、かぶれなどで永久染毛剤が使用できないヒト用だ。

 染毛料は黒髪の色を変える力は強くないが、白髪を染めたりヘアカラーによって明るくなった髪色を落ち着かせたりする。汗や雨などで色落ちする。皮膚や衣類、床・洗面台・家具などにつくと、すぐには落としにくい。

 一時染毛料とは、一時的に髪の色を着色したい人や部分的に手軽に着色したい人用である。着色は一回のシャンプーで落ちる。かぶれ、髪の傷みはほとんどないものをいう。

【薬用化粧品】

美白の部外品は、「紫外線(UVも含む)を防ぐ」、「メラニンの生成を抑え、しみ、そばかすを防ぐ」が効能で、化粧品と違う。また、化粧品の「日やけ」と同様に「メラニンの生成を抑え」は「しばり表現」となり、部外品だからといって「しみ、そばかすを防ぐ」と簡略化はできない。

おわりに

 化粧品と異なり部外品の場合は2つの点が必要である。厚生労働省が許可した効果・効能に有効な成分が配合されている。そして、厚生労働省の許可を受けて製造する。

 参考文献
 1) 昭和36年2月8日薬発第44号都道府県知事あて薬務局長通知「薬事法の施行について」記「第1」の「3」の「(3)」
 2) http://www.jhcia.org/product/(2018/7/16アクセス)
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島田邦男

琉球ボーテ(株) 代表取締役

1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数

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