連載コラム

化粧品のリテラシー

2020.06.10

第37回 神だけでなく髪に

執筆者:島田邦男 琉球ボーテ(株) 代表取締役

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【C&T2019年1月号7面にて掲載】

はじめに

 漫画「サザエさん」の主人公・フグ田サザエさんの年齢は、何歳かご存知だろうか? 答えは、1922年(大正11年)11月22日生まれの27歳、アニメ版では未年生まれの24歳だそうだ。えっそんなに若いの! って思ってしまう。その理由は、彼女の特徴の1つである頭の三方(前頭部・左右の側頭部)にパーマをかけたヘアスタイルではないだろうか。

 原作者・故長谷川町子が、1946年(昭和21年)から連載を始めた頃の流行のモガヘアーと呼ばれるものである(図1)。当時の多くの女性は、年に数回高価だった美容室に通ってパーマを強くかけていた時代だった。

 パーマの起源は、紀元前3000年にさかのぼる。頭髪に粘土を塗って天日で乾かして、人工的な捲毛をつくっていた。クレオパトラも行っていたらしい。

 しかしこれでは1カ月以上の時間がかかり、人工的な捲毛はすぐに元の戻ってしまうため大衆に普及しなかった。今回は、そんな時代から今に至るまで流行の変遷を経てきたパーマについて、毛髪中の挙動から考えてみたい。

毛髪内部2)

 毛髪の主成分はケラチンと呼ばれるタンパク質だ。ケラチンは多くのアミノ酸が集まって出来ており、アミノ酸どうしの結合の仕方がいくつかある。

 ケラチンタンパク質はポリペプチドを主鎖としたラセン状の構造をしている。ポリペプチド主鎖は隣り合った主鎖どうしが横につながる「側鎖結合」と呼ばれる結合で結びついている。この横のつながりがケラチン分子を固定し、強度や弾力などいろいろな特性をケラチンに与えている。

 主な側鎖結合として、イオウどうしの結合である「シスチン結合(ジスルフィド結合)」、電気的に結びついている「塩結合」、水で簡単に切断される「水素結合」がある(図2)

 パーマ液1剤には還元剤が配合され、毛髪を軟化・膨潤させる働きがある。2剤には酸化剤が配合され、ウェーブを固定する働きがある。また、1剤と2剤の間には、必ず中間水洗を行うことが義務付けられる。この1剤と2剤の働きをもう少し化学的に説明する。


側鎖の切断2)

 パーマ液1剤の有効成分であるチオグリコール酸やシステインは、水素を与えることで毛髪中のシスチン結合を切断する(図3)。このように水素を付加させたり酸素を奪ったりする作用を「還元作用」と呼ぶ。

 また、パーマ液1剤の大半は、アルカリ剤が配合されている。このアルカリ剤が毛髪を膨潤させ、還元剤を浸透し易くする。また、アルカリ剤は毛髪内部の塩結合を切断する作用もある。このように、1剤の働きで毛髪は側鎖の結合が切断される。


側鎖の再結合2)

 1剤で切断されたシスチン結合は、毛髪がロッドに巻かれたり、伸ばされたりすることによって、毛髪の形状が変化している(図4)。2剤の有効成分である臭素酸塩や過酸化水素は、酸素を放出することによって切断したシスチン結合を再結合させる。

 このように酸素を与えたり、水素を奪う反応を「酸化」といい、酸化を行う成分である臭素酸塩や過酸化水素を「酸化剤」という。そして、2剤の酸化の働きは、臭素酸塩は酸性で強まり、過酸化水素はアルカリ性で強まる。

 パーマは1剤で毛髪内のシスチン結合を還元して切断し、2剤で酸化して再結合させることでかかり、ウェーブパーマとストレートパーマの違いは、1剤でシスチン結合を切断した後、2剤で酸化するときに毛髪が曲がっているかまっすぐかの違いだけで、かかる仕組みは同じだ。


毛髪のダメージ2)

 パーマのかかる仕組みは、毛髪の微細構造が密接に関係しているので、微細構造からパーマのかかる仕組みを説明する(図5)

 毛髪のコルテックス内は、毛髪の縦方向に沿った細長い微細繊維を形成している硬い部分(結晶領域)と、それを取り巻くように存在する非定型の柔らかい部分(非結晶領域または間充物質)に分かれている。

 どちらにもシスチン結合、塩結合、水素結合は存在する。結晶領域は、強い力で処理しない限り反応しない部分で、パーマ剤ではほとんど影響を受けない。その半面、非結晶領域は反応しやすい部分で、パーマ剤は主にこの部分に作用し効力を発揮する。

 ロッド等で巻かれた毛髪は非結晶領域の内部に歪ができ、ここにパーマの1剤を作用させると非結晶領域内のシスチン結合が切断され、軟化する。この状態で2剤を作用させると、非結晶領域の構造が変化した状態でシスチン結合は再結合され硬化する。

 極度に傷んだ毛髪にパーマがかからないのは、毛髪の非結晶領域が流出してしまっていてパーマ剤の作用する部分が少ないためである。

図5 毛髪の微細構造からみたパーマのメカニズム

おわりに

 冬の夜空を見上げて輝く『星に願いを』、といったロマンは幾つになっても失いたくない。ところで髪の星座があるのをご存知だろうか。この星座の由来に当たっては魅力的な伝説がある。

 エジプトのアレクサンドリアで文芸を保護した王のプトレマイオス3世は、自分の姉妹を殺したシリアを紀元前243年ごろ攻めた。王妃の妻ベレニケは夫が戦争で勝利したならば、有名な美しい髪を女神に捧げると誓った。夫が戻ると、王妃は髪を切り誓いどおり女神の祭壇に供えた。

 しかし翌朝に髪の毛は消えて、王と王妃は大変に怒り神官たちは死刑を覚悟した。このとき宮廷天文学者コノンは、「神は王妃の行いが大変に気に入り、髪が美しいので空に上げて星座にした」と王と王妃に告げ、獅子座の尾の部分を指した(図6)


 コノンのこのとっさの知恵により、王と王妃は満足し星を眺めて神官たちの命は救われ、これ以後『ベレニケの髪』の星座と呼ばれることになった。

 この実話は、『神だけでなく髪』がいかに大切なものだったのかを物語っている。女性の髪とはそれだけ神聖だったようである。

 現在は7割の女性がパーマをしていないという。髪が傷む、料金が高い、手入れが大変なためのようだ。しかし筆者は、カラーだけでなくウェーブのかかった美しい髪の復活に願いをかけてみたい。

 参考文献
 1) http://esper1029.hatenablog.com/entry/20 15/03/12/080000(2015/9/24アクセス)
 2) http://www.perm.or.jp/01/01.html(2018/11/30アクセス)
 3) http://ja.wikipedia.org/wiki/かみのけ座(2012/02/08アクセス)

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プロフィール

執筆者:島田邦男 琉球ボーテ(株) 代表取締役

1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数

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