【週刊粧業2021年3月1日号4面にて掲載】

 最近、どの企業のミーティングでも産みの苦しみを味わっています。消費意欲が落ち込んでいるためにトレンドが大きく動かないというのは、コロナ禍では当たり前の現象ですが、去年よりも今年の方が辛いのです。

 振り返ってみると去年は、新しい生活に順応するために「マスクメイク」「おうち時間(スキンケアやワークアウト)」などのニューノーマル消費が新たな消費のスイッチになるため、企画会議が新鮮な話題で持ちきりでした。一通りのことが出尽くしてしまったゆえの苦しさなのでしょうか。

 そこで今回は、現在のような状況下の生活者インサイトを私が代表を務める研究所で分析したのでご紹介します。それは「『やめる』を切り口にした価値創造」です。

 「やめる」を切り口にした見出しは、特に美容意識が高いクラスターをターゲットとする雑誌を中心に盛り上がっています。一部をご紹介しましょう。

 「美容好きさん50人の『マスクな毎日』で取り入れた美容・やめた美容(VERY2月号)」「これで気持ちがラクに!やめたこと、はじめたこと(Steady 2月号)」「いつもの髪型やめてみた!!(ar1月号)」「『やめてみる』ことで何かが始まる(VoCE2月号)」などが挙げられます。

 このように常識やルーティンだったことを疑ってみるという切り口は、特に新しくはないのですが、これらの見出しが全て新年号に出てくるのは異例の事態です。

 年明けは必ずと言ってもいいほど「〜を(新たに)はじめる」と言うのが多くなる時期ですから、今ならではのインサイトといえるでしょう。

 とはいえ、メーカーの人間としては「やめさせるだけ」ではビジネスは成立しません。「やめること」と「新しいものを消費する」ことが両立することが新たな商品のスイッチを押すことになるのです。

 最近急増している「石鹸落ちコスメ」へのニーズの高まりはここにあるのではないかと考えています。「クレンジングは良くないからやめるべき」というネガティブな印象ではなく、新しいものを導入するワクワク感を与えることができるからです。

 「オールインワンゲル」や「BBクリーム」も、「〇〇をやめる」と言うコンセプトではありますが、新しいものを取り入れるというワクワク感こそがヒットの要因だったと思われます。

 このように「やめる」を起点に発想することは、新しい価値創造の大きな鍵となるでしょう。アイデアに煮詰まったら、ぜひそのことを思い出してみてください。
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廣瀬知砂子

女性潮流研究所 所長 / 商品企画コンサルタント

実践をモットーとする化粧品コンサルタント 現場発想で生み出した独自の商品企画法やトレンド分析法で、大企業から中小企業まで多くのヒット商品を手がけている。

http://www.beautybrain.co.jp/

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