【週刊粧業2021年11月1日6面にて掲載】
日本でも中国でも乾燥の季節が到来している。この季節気になるのは肌だけではなく、唇の乾燥。中国でもこの季節に本格化するリップクリームのニーズをSNSのクチコミから簡易分析した。
今回分析を行った対象期間は2020年10月から21年9月の1年間。まずウェイボーに書き込まれた「潤唇膏(リップクリーム)」に関すクチコミの月次件数を見てみた。
唇の荒れは季節性の悩みであることから、毎年9月頃から件数が増え始め、12月、1月には月間約4万5000件と最大化し、3月頃に件数が減少し落ち着くといったサイクルがわかる。
9月というと日本では残暑の時期だが、中国の東北地方、北京などの北方地域では気温が下がり、空気が乾燥し始める。
つまり肌や唇の乾燥が気になり、対応を始める時期となる。
そして旧正月を終えた段階でそれがひと段落すると考えられる。
そのリップクリームに関するキーワードを見てみると「Vaseline」が上位にきている。
注意が必要なのが、ユニリーバ社の商品ブランドとしての「ヴァセリン」と、素材としての「ワセリン」、ともに中国語では「凡士林」と表現されるため、「ヴァセリン」の商品と「ワセリン製リップクリーム」の双方が含まれていると思われる。
またブランドでは「Mentholatum」「Nivea」も見られる。
機能に関するワードとしては「かさつき」「補水」といったものが上がっている。また注目したいのは「角質除去」というワードが、それらより上位であることだ。
中国消費者が唇ケアに求めるものとして、単純に乾燥による不快感の解消だけでなく、見た目、特に「潤いとハリのある唇=かわいい、キレイ」という印象を求めていると考えられる。
ウェイボーをながめると「角質除去」とともに「去唇紋(唇のシワを取る)」といった言葉も見られる。キーワードランキングでも通常のリップクリームだけではなく、潤い機能を備え、かつ色合いをよく見せる「リップカラー」「グロス」などもキーワードとして上位にきており、唇の“見た目”へのこだわりがうかがえる。
また「ココナッツオイル」や「ミネラルオイル」、「蜜蝋」といったクチコミもあり、いわゆる「成分党」と呼ばれる、商品に含まれる素材へのこだわりが強い人たちによるものと考えられる。
こうした消費者に商品訴求する際は、機能性だけではなく、使用素材やメリットなどをロジカルに説明する必要があるだろう。
今回は同時に、複数のブランドのリップクリームに関してもクチコミ簡易分析を行った。
純粋にクチコミ分析で多いのは、先述の理由から「Vaseline(ワセリン含む)」や「Mentholatum」なのだが、その中で注目したいのが、ある日系ブランドの動きである。
そのブランドは「Naris」。ナリス化粧品である。
20年第3四半期から21年7月までの同ブランドに関するクチコミは、月1件程度であった。
しかし21年8月には一気に200件を超えるクチコミが観測できる。まさに爆増である。
同ブランドのクチコミキーワードで見ると「保湿」が最上位に来ており、その使用感(保湿力)が好評であることは把握できる。しかし、そのクチコミの急激な増加の背景を特定することは現時点では難しい。
3月には同ブランドの日やけ止めスプレーの代言人に人気芸能人「鄧倫」を起用していること。また中国の七夕(8月)に合わせてリップクリームのイベントを打っており、それらの影響もあるかと推測される。
これから中国は各地で冬を迎え、消費者の唇の潤いニーズも本格化する。「Vaseline」「Mentholatum」など大手の存在感も強いが、「Naris」のように急に注目を集めるブランドも存在している。
消費者のニーズを捉えることでムーブメントを起こせる可能性があることを認識しておきたい。