第20回 パーソナルケア製品の生物多様性最新動向

【週刊粧業2025年6月23日号7面にて掲載】

 化粧品とサプライチェーンがよく似ている日用品業界でも、気候変動や生物多様性保全対策が進んでいる。化粧品以上に化学物質の問題については兼ねてから注意喚起がされているが、地球環境に対する課題解決についてはまだまだ発展途上だ。筆者は昨年度、日用品業界の生物多様性配慮の実態について調査して発表した(昭和女子大学2024年度紀要)。

 ここでいう日用品は、石鹸やシャンプー、UVケア製品などのパーソナルケアに特化したものと定義する。これらのパーソナルケア製品分野では、パーム油、プラスチック包装/容器、化学物質汚染が3大課題といえる。国内大手4社の定量分析によれば、すでに取り組みを行っている企業もあれば、不十分な点もまだある。

 パーソナルケア業界の国内大手4社とは、売り上げ上位順に、①花王 ②ライオン ③ロート製薬 ④小林製薬 をあげ、これまでの研究実績から考察した独自指標「パーソナル業界における生物多様性基準」に基づき、分析した(2023年各社公表時点)。この独自基準とは、化粧品の生物多様性基準(2023年度研究)をさらに考察した指標で、5つの上位分類と11つの下位分類からなる。

 特に生物多様性と汚染の上位分類では、各社で対応にばらつきが見られた。生物多様性の下位分類に置いた(1)持続可能な農業および再生農業/(2)ナチュラル・植物原料の採用については、小林製薬のみ対応が見られた。(3)フェアトレードについては、全社未対応だったが、(4)サステナブルパッケージ/プラスチック汚染対策では、すべての企業が何かしら対応を始めている。生産時などに利用する(5)水利用のモニタリングについては、全社で対応していた。

 生物多様性保全と持続可能な産業の遂行において、認証についても重要視される。特にパーム油認証、紙パッケージなどに用いる紙資源のFSC認証は各社で取得が進み、消費者にもアピールがされているが、パーム油においてはニーズの高騰により、認証パーム油の実質認証供給不足もある。

 企業は認証に参加しているというだけがアピールされているので、今後は消費者への正しいアピールのために、利用実績数値も公表していく必要がある。ライオン・ロート製薬・小林製薬の3社では、認証パーム油についてはこれからである(調査時点)。

 汚染の(7)化学物質汚染では、ここでは人体への影響ではなく、地球環境に問題が報告されている2点(マイクロビーズと紫外線吸収剤)を主に調査した。花王ではどちらも取り組みを行っているが、ライオン・ロート製薬・小林製薬の3社ではどちらもまだ取り組みが行われていない。従来の化学物質管理は兼ねてから対応しても、化粧品を主に扱う企業に比べると、マイクロビーズと紫外線吸収剤の2点では対応の遅れが目立つ。今後は、化学物質における環境配慮の視点をもっと持つ必要がある。

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長井美有紀

日本サステナブル化粧品振興機構 代表理事

化粧品業界に長く、早くから「環境×化粧品」を提唱。業界・企業・一般に化粧品の環境・社会課題について解く。サステナブル美容の専門家としても活躍し、主に生物多様性と産業について研究。講演や執筆、大学での講義などで幅広く活躍。

https://sustainable-cosme.org/

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