花王は、粘土質土壌に低縮合リグニンを混ぜて土を適度な塊にし、空気を多く含む土壌に改良して大豆の収穫量を上げる技術を開発した。
大豆は栄養バランスがよい作物であることから、世界的な人口増加に伴う食糧問題解決への貢献につながることが期待される。なお同研究内容は、日本作物学会第248回講演会(2019年9月25~26日、鳥取県)で発表している。
世界の人口は、2010年の68億人から2030年には83億人、2050年には90億人に達すると言われており、人口の増加とともに世界的な食糧難への懸念が指摘されている。
一方で地球環境の保全も重要な課題であるため、農業分野では環境を保全しながら食糧を増産することが求められるようになってきている。
同社は、植物(葉や根の表面)と外部環境(土壌、水、空気など)の界面の物性を精密に制御する技術の開発を通じてこの問題への解決策を探索。これまでに、葉の表面の性質を変えて農薬の濡れ性や浸透性を高め、農薬の効果の安定と使用量削減に貢献するアジュバント技術や、発根を促して収穫量を上げる生育促進技術などを開発し、実用化してきた実績がある。
今回の研究では、食糧供給の観点から主要作物である大豆に焦点を当て、単位面積あたりの収穫量を上げる技術を検討した。現在、日本を含むアジアで稲作から転換して大豆栽培を行っている場所が多く見られるが、稲作から転換した土壌は一般に肥沃である一方、粘土質で排水性が悪く根に十分な空気が供給されないため、大豆の生育が悪いという課題があった。
そこで、粘土質土壌の空気相を増やす方法として、土をある程度の塊にして(団粒化)、空気を含むすき間をつくることを考えた。
粘土質土壌にこの性能をもたらす物質を探索した結果、植物バイオマスの主成分であり、植物組織を結合して構造を強化する性質を持つリグニンに着目。この性質を維持したリグニン(低縮合リグニン)を分離することに成功した。この低縮合リグニンを土壌に混ぜることで土が適度に塊になり、空気相が増えるという。
実際、フクユタカという品種の大豆を用いてガラス温室(和歌山県)での試験を行ったところ、低縮合リグニンを加えた土壌はそうでない土壌に対して出芽率が上がった。また、出芽後の大豆を育てたところ、低縮合リグニンを加えた土壌ではそうでない土壌よりも根の張りがよくなることが確認できた。
さらに、東北大学 微生物共生研究室 南澤究教授の研究グループと共同で、エンレイという品種の大豆を用いて畑での試験(圃場試験、宮城県)を行ったところ、低縮合リグニンを加えた土壌はそうでない土壌に対して、種を播いてから収穫までの期間を通じて土壌中に空気を十分保っており、収穫量が30%以上増加するなど大幅に向上する傾向を確認した。
今後もさまざまな粘土質土壌で実証実験を重ねて性能を検証し、食糧難の解決に貢献できる技術の実用化を目指していく。