花王、菌の最表層に対する抗菌剤の作用メカニズムを詳細に解明

粧業日報 2020年10月28日号 5ページ

カンタンに言うと

  • 界面活性剤と芳香族アルコールによる抗菌メカニズムを原子・分子レベルで
  • ウイルスの感染性を失わせるメカニズム解析にも応用
花王、菌の最表層に対する抗菌剤の作用メカニズムを詳細に解明


ウイルスの感染性を失わせる
メカニズム解析にも応用

 実験には、細菌の最表層に似た、リポ多糖が2次元的に均一に並んだモデル膜を用いた。

 グラム陰性菌の一種であるサルモネラ菌の膜からリポ多糖の分子を高純度で取り出して溶解させ、水面上に滴下することで作製したこのモデル膜に、塩化ベンザルコニウムとベンジルアルコールを作用させ、放射光X線を用いた解析手法であるX線反射率(XRR)・斜入射角X線蛍光(GIXF)を同時に測定できる欧州放射光施設(ESRF)の装置を駆使して、リポ多糖層の構造やカルシウムイオンのバリア層の変化を原子・分子スケールで解析した。

 1000分の1㎜程度の菌のさらに最表層という微小な領域を解析することは容易ではなかったが、これらの最先端の分析技術を用いることで、今回の解析が可能になったという。



 実験の結果、プラスの電気を帯びた塩化ベンザルコニウムだけを加えても、マイナスに電気を帯びたリポ多糖に引き寄せられて結合はするものの、カルシウムイオンのバリア層に阻まれるため、モデル膜のリポ多糖は安定が維持されることがわかった。

 一方、ベンジルアルコールを一緒に混ぜると、カルシウムイオンのバリア層はありながらも、ベンジルアルコールの作用によって、リポ多糖分子の糖鎖と炭化水素鎖のつなぎ目(界面)部分にゆるみが生じ、塩化ベンザルコニウムが膜に潜り込んでリポ多糖分子の並びを乱し、リポ多糖の膜を破壊することがわかった。

 こうした抗菌作用メカニズムを0.01㎚の超微小スケールでとらえた事例は世界的にもまだ少なく、先駆的な発見となった。

 目に見えない抗菌作用メカニズムが原子・分子スケールで解明されると、人や環境に低負荷な剤の組み合わせによる効果的な抗菌剤や抗菌技術の開発が可能になるだけでなく、細菌に似た表面構造を持つウイルスの感染性を失わせるメカニズムの解析への応用も期待できるという。

 なお、今回の研究で取り上げた界面活性剤・塩化ベンザルコニウムは、経済産業省が公表している新型コロナウイルスに有効とされる界面活性剤の1つであり、世界トップレベルの研究者との共同研究の成果を駆使し、サイエンスに裏打ちされた製品や技術の開発を行うことで、「感染症と向き合う新たな社会」における喫緊の課題である公衆衛生レベルの向上と感染予防に貢献していく。
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