花王スキンケア研究所は、マイクロスコープ血管画像の自動抽出技術を用いて、皮膚深部の血管と毛細血管の血流情報が同時に検出できることを見出した。
今回の研究成果の一部は、Skin Research and Technologyに掲載されたほか、研究成果を示す画像が掲載号のアディショナルカバーに採択された。
皮膚には、直径数十~数百μmの血管と10μmにも満たない極めて微細な毛細血管による密なネットワークが形成されている。
血管を流れる血液には熱、栄養、水分や酸素などを運び、不要となったものを回収する役割があり、同社では、皮膚を美しくすこやかに保つうえで、これら血管のさまざまな機能に注目し研究を進めている。
皮膚深部の太い血管と皮膚表層に存在する毛細血管では、その主な役割や血流の作用特性が違うことが知られており、この違いは肌状態とも密接に関わっていると考えられるが、深さの異なる血流情報を取得するには複数の機器を組み合わせる必要があり、血流は常に変動するため、これまで同一部位の情報を同時に取得することは困難だった。
そこで今回は、これらの異なる血管の血流情報を、1つの画像から同時に検出することに取り組んだ。
同社は2019年、皮膚の毛細血管の血流変化を特異的に抽出・定量する画像解析技術を構築し、毛細血管を含む肌画像をヘモグロビン・メラニン・陰影の各成分に分割。ヘモグロビン成分画像にフィルタ処理やノイズ除去を施すことにより、毛細血管のみを抽出することを可能としてきたが、今回はこのヘモグロビン成分画像に、マイクロスコープで撮影可能な範囲の皮膚の血管情報がすべて含まれていることに着目した。
ヘモグロビン成分画像の輝度値を積算することで、画像に写る肌全体の血流量を推定することに成功した。つまり、この手法を加えることで、1つの肌画像から毛細血管と皮膚全体の血流情報を同時に取得することが可能になった。
研究では、日本人男女6名の上腕内側部の皮膚に順次、温熱、二酸化炭素(炭酸)を処理し、処理後の皮膚画像を取得。画像処理を施し、ヘモグロビン成分量と毛細血管の血流量を解析した。
その結果、温熱を処理した場合には、ヘモグロビン成分量が増加し、撮影可能な範囲の皮膚全体の血流が増加していたものの、毛細血管にはほぼ変化が見られなかった。
一方、炭酸を処理した場合には、皮膚全体を示すヘモグロビン成分量が増加するとともに、毛細血管の血流量も増加していたことを確認した。
この結果は、温熱と炭酸で血管への作用特性が違うというこれまでの知見を支持するものだった。このことから、この画像解析は、異なる血管の血流情報を1つの画像から同時に評価できる手法である可能性が示された。
今回の研究では、非侵襲で簡便な血管の画像解析手法を発展させることで、同一部位の毛細血管血流と深部血流情報を同時に取得できる可能性が示されたことから、異なる深さの皮膚血流と肌性状の関係性や、さまざまなアプローチによる血行促進作用をより幅広く調べることが可能になるという。
今後は、加齢や環境による血流の変化、血流の状態がさまざまな肌状態に与える影響などについて検討していく。