花王、手指が持つ感染症に対するバリア機能のメカニズムを解明

粧業日報 2022年1月11日号 2ページ

花王、手指が持つ感染症に対するバリア機能のメカニズムを解明
 花王は、ヒトの手指が生来持つ感染症に対するバリア機能には、手汗から分泌される乳酸のほか、手指のpH・温度が重要であることを明らかにした。さらに、分子動力学法(MDシミュレーション)による解析を行い、乳酸が効果的に菌に作用するメカニズムを解明した。

 今後、この知見を、手指バリア機能を簡便に予測できるシステムの開発のほか、手指バリア機能を向上・維持する製品の開発にも応用していく。この研究成果は、国際学術誌「Skin Research and Technology」に掲載され、その表紙に研究成果を示す画像が採用された。

 菌やウイルスに汚染されたものを触り、口や鼻などを通してうつる「接触感染」は、感染症伝播の主要な経路の1つで、接触感染を予防する手段として、手洗いや手指消毒は有効だが、人は無意識のうちに顔を手で触れることも多く、常にそれらを行い、防ぎ続けることは非常に難しい。

 そこで同社は、ヒトの手指には、さまざまな菌やウイルスに対する高い不活化作用が恒常的に備わっており、その効果には個人差があること、感染症への罹患性とも関係することを見出し、このヒトの手指が生来持つ菌やウイルスを減少させる感染防御力「手指バリア機能」に着目した研究を進めてきた。

 これまでの研究で、手指バリア機能には、手指に存在する「乳酸」が重要な成分であることをすでに確認しているが、今回はさらに、乳酸による手指バリア機能がどのような条件で効果的に働くのかを解析した。

 手指の表面は菌やウイルスと直接接触する場所であるため、その性状は機能発現に大きく寄与することが予想された。そこで、20~60歳の健常な男女106名の手指の性状を測定し、手指バリア機能との関係性を調べた。手指の性状として、「乳酸量」「指紋の深さ」「pH」「角層水分量」「温度」「発汗速度」を測定し、手指バリア機能は、手指に大腸菌を塗布し、1分後の菌の相対減少量を「抗菌活性」として測定した。その結果、手指バリア機能は、「乳酸量」「温度」と正の相関をし、「pH」と負の相関をすることがわかった。

 さらに、「乳酸量」「pH」「温度」の3因子を用いて重回帰分析を行い、手指バリア機能をそれぞれの指標から予測するモデルの構築にも成功した。同モデルにより、菌を手指に塗布せずとも、簡便にヒトの手指バリア機能を予測することが可能となった。

 次に、「乳酸」「pH」「温度」が抗菌活性に及ぼす影響を、試験管を用いたモデル試験により検証した。大腸菌を含む液と各評価溶液を30分間接触させ、菌の相対減少量を「抗菌活性」として測定した。その結果、他の酸(塩酸)を用いた時とは異なり、乳酸の存在下で「pH」が低いまたは「温度」が高いことにより、抗菌活性が大幅に上昇することがわかった。

 先行研究では、乳酸が菌の細胞膜を透過して菌の内部を破壊することで抗菌活性が発現し、その効果はpHが低い条件において高まることがわかっていた。しかし、温度が乳酸の抗菌活性にどのように影響を及ぼすかについては詳細が不明だった。そこで、大腸菌の細胞膜を模倣した分子モデルを作成し、MDシミュレーションを用いて、20~40℃の温度範囲で乳酸分子の透過性に関与する指標について計算したところ、高い温度で菌の細胞膜構造が緩み、乳酸分子の透過性がさらに高まることを示唆する結果が得られた。

 今回の研究により、ヒトが生来持つ手指バリア機能には、「乳酸」のほか、手指の「pH」「温度」が重要であることが明らかとなった。さらに、MDシミュレーションによる解析により、温度が高くなると乳酸分子が菌の細胞膜を透過しやすくなることで効果的に作用することもわかった。

 今回の知見をもとに、菌を用いずに手指バリア機能を簡便に予測できるシステムの開発を進める。さらに、乳酸をより効果的に菌に作用させる技術や製品の開発にも応用していく。
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