カンタンに言うと
大手ガラスメーカーのAGCは、世界トップレベルの「ガラス技術」と「デジタル」の力を融合し、高い反射性と表示視認性の両立を実現したディスプレイ一体型ミラー「ミラリア」による新たな映像体験の提案で、化粧品関連をはじめとした店舗のDX化やCX向上への貢献を目指している。
建築ガラス アジアカンパニー 日本事業本部 新市場開拓部の南孝也氏によると、「ミラー型サイネージは比較的新しい技術として捉えられがちだが、以前からハーフミラーまたはガラスとミラーフィルム、サイネージを組み合わせるなどの方法で設置されてきた」という。
例えば化粧品関連では、2010年代後半からコスメ・美容系展示会への出展を筆頭に、化粧品メーカーの直営店やドラッグストアでの店頭、ポップアップイベントなどで活用され始めた。しかし、同社がマーケティング活動で把握したミラー型サイネージの現状としては、「化粧品販売において店頭でのカウンセリングに欠かせない『ミラー』と、製品情報などを顧客に伝える『サイネージ』の2つを兼ねるものの、店頭で見かける機会がさほど多いとはいえず普及に至っていない」という。南氏はその理由について、次のような課題があると指摘する。
「化粧品販売の店頭で、お客様へのカウンセリングや製品をご提案する中でミラーは切っても切り離せないものであり、そこをデジタル化したいといったニーズは以前から高まっていた。しかし、導入を断念した理由としてよく聞かれたのは、『ミラーが暗い』『デジタル表示の視認性が悪い』といった、従来のミラー型サイネージに対する性能面での不満点であった」
これまでのミラー型サイネージは、高輝度ディスプレイにダーク系のハーフミラーとガラス、ミラーフィルムを現場で組み合わせて設置するタイプが一般的となっていた。しかし、屋外の日光下でも視認できるレベルの高輝度ディスプレイを室内で使用すると、筐体の発熱・排熱対策のノウハウが必要となる。また、ダーク系のハーフミラーでディスプレイ表示は明るくなる反面、ミラーを使用するシチュエーションでは鏡像が暗くなりがちで、鏡像と映像表示のバランスに課題があった。
一方、AGCが開発したミラリアは、特殊ミラーとディスプレイを工場で組み立てる際に同社独自の光学設計技術を織り込み、完成品として出荷したものを現場で設置するため品質が安定している。明るさや見やすさを考慮した光学設計技術をもとに開発された特殊ミラーを主とした構造のため、通常ミラーの利用シーンとほぼ同等の品質であり、照明が明るい店舗などで鏡像に映像が重なっても視認性の高い鮮明な画像が表示できるという。
さらに、ミラリアは消費電力と排熱を抑える高効率な光学設計により、壁内や狭小空間でも安心して設置できる。標準仕様としては、3サイズ(65インチ、43インチ、24インチ)をラインアップしている。
ミラーの美しさを保ちながら明るく鮮明な映像を表現できるミラリアは、各種コンテンツやカメラなどの周辺機器との組み合わせにより、化粧品販売の店頭においてミラーを用いた従来のカウンセリングにインタラクティブな体験や広告表示を合わせることが可能だ。
「本来ミラーである場所が広告発信の場となり、店頭以外にも商業施設の安全・防犯用途で設置されているミラーやパウダールームのミラーなどのデジタル化が可能で、『リテールメディア』の表示デバイスとして活用を検討される企業が増えている」(南氏)
ミラーとディスプレイが一体化したミラリアを導入することで、これまでそれらを別々の場所に設置していた店舗では限られた店舗スペースを有効活用でき、また、サイネージとしてのコンテンツ発信が特徴的なものになるという。
「サイネージはコンテンツを常に表示する必要がある。コンテンツに不良があった場合は調整中や故障中といった張り紙が貼られ、単なる黒い箱になってしまう。それに対し、ミラリアはコンテンツを非表示にすれば全面ミラーとして活用でき、人が近くにいる場合はミラーとデジタルを両立、人が近くにいない場合は通常のサイネージと同様に全面デジタル表示といったように、様々なパターンでメリハリのあるコンテンツ表示が可能だ」(南氏)
ミラリアではこのほか、カメラやセンサーなどの周辺機器を組み合わせることでカラー診断を行い、結果に応じてその人に合ったおすすめの商品をミラー上に表示・提案することもできる。
化粧品・美容関連での具体的なミラリアの採用事例としては、AI技術を用いてサロンの顧客とスタイリストをつなぐ新たなコミュニケーションサポートアイテムとして、タカラベルモントのスマートデバイスミラー「ECILA(エシラ)」に採用されている。「ECILA」はアプリとの連動で、来店前のカウンセリングから店頭でのビジュアルコミュニケーションを通じて、顧客のニーズに合わせたサービスを提供している。導入サロンの中には、施術中におすすめのヘアケア商品の紹介や近隣のお店の広告を表示するなどして、「リテールメディア」の表示デバイスとして活用されているケースもあるという。
採用事例ではこのほか、スギ薬局がアイシンと協業したヘルスケアの最先端を体験できるDX実験型店舗「SUGI+ 羽田イノベーションシティ店」の化粧品サービスカウンターで、アイシンが自社開発したリアルタイム音声認識アプリ「YYProbe(ワイワイプローブ)」との組み合わせでミラリアを設置している。YYProbeの自動翻訳機能により、ミラリアの前で接客している日本人の販売員と訪日外国人客の会話が自動でテキスト化され、内容を瞬時にミラーで表示することで円滑なコミュニケーションが実現した。
「インバウンドのお客様がグループで来店されても、店頭では接客がマンツーマンになりがちといった課題があったようだ。ミラリアの前で一対一の接客を行うと、お互いの母国語が相互翻訳され会話のやりとりが画面に投影されると、周りのお客様も内容が理解できる。様々なコンテンツとミラリアの組み合わせを通じて、今後も化粧品業界で新たな顧客体験を提供していきたい」(南氏)
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この記事はC&T 2024年12月16日号 54ページ 掲載
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