【C&T2019年4月号7面にて掲載】
はじめに
沖縄は、韓国と中国のように2月の旧正月も祝う。明治政府によって廃藩置県で正式に日本国になったが、もともとは鎖国政策の本土とは別で、東南アジア交易で栄えた万国津梁の450年続いた琉球王国であった。開国させたペリーは、ひと月ほど前に琉球に立ち寄ってから浦賀沖に来ている。
では、その沖縄の文化って何だろうか?中国の三弦(さんしぇん)からニシキヘビの皮を張った琉球三線となり、そこから戦国時代にネコの腹の皮の三味線が生まれたように、中国大陸や日本本土と盛んに交流して、アジア貿易の中継点として重要な役割を果たしてきた。
その沖縄の化粧品で注目する素材は何があるだろうか。原料では、表示名称に地名が入るオキナワモズクエキスがある。製品では、空港やお土産売場で売っているシーサーのフェイスマスクは人気のようである。色々あるが、私の住む沖縄の定番の化粧品素材を、まず『言いまーす』と始めよう。
海洋深層水
沖縄に住むと髪がきしむことが「唯一の悩み」という女性がいた。水道水が本土のような泡立ちのいい軟水ではなく、欧州のような硬水だ。サンゴによるカルシウムやマグネシウムなどのミネラルが溶け込んでいるという。
しかし、久米島には日本最大級の取水量を誇る海洋深層水研究所があり、様々な研究が進められている(表1)。
表1 沖縄県海洋深層水研究所の報告(久米島の海水)
海洋深層水の特徴は、①太陽の熱エネルギーが届きにくいため、年間を通して水温が低い(低温安定性)②光も届かず、植物プランクトン等による光合成が行なわれないため、栄養塩が消費されない結果、ケイ酸態ケイ素、リン酸態リン、硝酸態窒素などが多い(富栄養性) ③有機物が少ないため、それを利用する細菌が少ない(清浄性)である。太陽の光が届かない約612mもの深度で育まれた海洋深層水で、クルマエビや海ブドウを養殖している。
肌は加齢などにより、皮膚線維芽細胞のコラーゲン産生能が低下し、コラーゲンの減少や変質が生じる。この深層水から独自製法で作られた「KM-DSWP」(化粧品原料水)の美肌効果評価では、約210%の相対コラーゲン合成活性を示し(蒸留水に比べ2.1倍)、プロコラーゲン産生促進効果が認められた(図1)。コラーゲン産生を促すことで皮膚のエイジングケアに効果を示すことが期待される。
図1 ポイントピュール社による海洋深層水の評価
月桃
月桃の花のつぼみはふっくらとしてみずみずしく、先端がピンク色になって、まるで桃のようだということから月桃という名前になった(図2)。
沖縄では今でも旧暦の12月8日に月桃の葉で包んで蒸したムーチー(鬼餅)を食べる文化がある(図2)。防腐剤等がない時代、その優れた防腐効果から食べ物を包んで保存するなど、生活の知恵として活用されてきた。この用途のために需要が一定数存在していたが、栽培されることはあまりなく、野生の月桃が大量に収穫されていた。
図2 月桃の花とムーチー(鬼餅)
月桃には赤ワインの34倍のポリフェノールが含まれている。月桃ポリフェノールの主成分は、タンニンとフラボノイド類で構成され、このうちタンニンは緑茶やブドウに含まれる渋み成分で、活性酸素の働きを抑える抗酸化作用や殺菌、消臭作用があるといわれている。
タンパク質と結合してタンパク質を変性させ、組織などを縮める肌の引き締め効果があるため、毛穴を目立ちにくくしてくたり、オイリースキンの予防に役立ったりする。
また、メラニンの増殖も抑える働きもあるので、シミやくすみを防ぎ、美白にも効果的である。
シークヮーサー
沖縄方言で「シー」は「酸」または「酢」、「クヮーサー」は「食わせるもの」あるいは「加える」を表し、シークヮーサーは「酸を食わせるもの」「酢を加えるもの」を表す。由来は芭蕉布を織り上げた際に、そのままでは固い布をシークヮーサーの果汁で洗浄し柔らかくしたからだ。
このシークヮーサーは沖縄北部を中心に、年間3000~4000トン生産される。95%が加工用ジュースとなり、残渣は各家庭で消費される果物と異なり回収の必要がない。
その残渣は生産量の半分で年間1500~2000トンになる。その有効活用のために、琉球大学照屋俊明教授らは、高純度ノビレチンの抽出法を権利化し、初めてヒト線維芽細胞での美白試験を実施した(図3)。
図3 シークヮーサー果皮のノビレチンの機能
沖縄には、真栄田岬「青の洞窟」など人気のダイビングスポットが多い。初心者たちの困ることの一つにダイビングスーツの着衣や脱衣時のストレスがある。
弊社では、ダイビングスーツのスキン素材専用ジェルを特許出願(特許出願番号2018-236401)し、おしゃれにダイビングを楽しんでもらうために、このノビレチンを配合し日やけを防ぐジェル「シーラバー」を今春から発売する(図4)。
図4 シークヮーサーのノビレチン配合
スキン素材のダイビングスーツ脱着専用ジェル「シーラバー」
おわりに
天然素材の群生地である沖縄は宝の山かもしれない。しかし、その宝庫に肝心の沖縄の人たちが気づいていないと思う。従って、多くの素材があってもその有用性データが不足している。素材を知恵で磨いていけるような人が欲しいと思う。
沖縄に住んで、知った歴史上の人物に蔡(さい)温(おん)がいる(図5)。部族間でバラバラな島が一つにまとまり、1711年、琉球王国に尚敬王に即位する。蔡温はその国王のもとで歴史上唯一の国師となり、国全体を指導する役務を担った。
図5 蔡温 1682年10月25日(康煕21年9月25日)
― 1762年1月23日(乾隆26年12月29日)
中国の清と本土の薩摩藩の間を取り持ち、農民に耕地の永久耕作権を与えて農地の地力保護を図ったり、農業用水路の整備を進めたりした。村や間切の境界を明確にして土地所有をはっきりさせ、旱魃や暴風に対する食糧備蓄制度を充実させた。
また、農民を組合に所属させ納税の連帯責任を負わせることで農民同士の協力を促すとともに相互監視による税収の安定化をはかった。まるでJA全農のようなこの組織は、後に団結の結いと協同のまーるを意味する『ゆいまーる』と呼ばれるようになった。
その蔡温は少年とお爺さんのエピソードを書き残している。少年は誇りを持って「私は先祖代々伝わる大切な剣を持っています。それを毎日怠らす磨いております」と言った。」
するとお爺さんは尋ねた「その剣以外に、おまえは何か宝を持っているのか」。少年は答えた「何も持っておりません」。お爺さんは静かに言った「その剣など小さな宝にすぎないのだよ、君は最高の宝を持っている。それは君自身だ」。
いつの時代もどの地域も組織も、人材という宝の育成に心を砕いていたことが知れる。
参考文献
1) https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/norin/shinsosuiken/index.html(2019年2月11日アクセス)
2) http://pointpyuru.co.jp/shinsousui/ (同)
3) https://ja.wikipedia.org/wiki/ゲットウ (同)
4) https://ja.wikipedia.org/wiki/ムーチー (同)
5) http://ryukyu-beaute.com/?p=480 (同)
6) https://ja.wikipedia.org/wiki/蔡温 (同)