はじめに
振り返れば、この2年間は新型コロナウイルスに振り回されっぱなしだった。経済産業省の2020年のデータ1)では、化粧品出荷額は大きく落ち込み、2014年と同水準にまで低下した(図1)。
訪日外国人消費の減少が大きく影響し、その分輸出額は増加となっており、国内と比べ海外市場は比較的堅調だった。外出時のマスク着用で口元が隠れることから、口紅の需要も大きく減った(図2)。
民間調査会社の発表では、2020年のネイルサロンの倒産件数は2000年以降最も多くなっており、セルフネイルのための空間や道具をレンタルできるネイルサロンも誕生した。
この2020年春から現在までのコロナ禍で、インバウンド消費は消滅した国内がこれからどんな風に変わるのだろうか。コロナ禍のその後だけではなく10年後を述べてみる。
コロナ禍のその後2)
現在、緊急事態宣言が解除されて国内の感染者数は減少している(2021年10月現在)。では、第6波の対策や3回目のワクチン接種が続くと、これからはどうなるのか。海外を参考に述べてみる。
新型コロナウイルスの感染者数が減少して、発生地とされる武漢市も都市封鎖が2020年4月8日に解除された。この時、中国では2カ月以上の外出禁止期間が終了した。
また、一部報道によると事業の営業が再開されるとともに、「経済のV字回復」や「リベンジ消費」が始まった。
とはいえ、2021年10月の武漢マラソンが急遽延期されている。新規感染拡大のリスクは、今も続いている。
チャイナ コスメティック ラボ(CHINA COSMETIC LAB)の秋山氏は、「中国国家統計局が発表した最新のデータによると、20年1月から2月にかけて、化粧品市場の小売総売上高は387億元(約5805億円)で、前年同期比14.1%減少した。
しかし、中国国内の化粧品売上の30%を占めるTモール(中国最大のオンラインショッピングモール)では3月の美容関連商品の売上が前年同月比で50%増加した。
また、(日経ビズゲートの報道によると)3月8日のアリババの販促イベント『女王祭』では、売上が倍増したブランドアイテムは2万点にのぼるとも言われている。すでに『リベンジ消費』は始まっていると考えられる」と話した。
感染前の中国市場は口紅がヒットアイテムだったが、マスクの着用により口紅をつける機会が減少した。目元にフォーカスを置いた『半顔メイク』が流行り、口紅の代わりにアイシャドウをはじめとするアイメーク製品が台頭している。やはり、マスク着用の長期化は避けられないだろう。
今後の日本市場も「V字回復」「リベンジ消費」になるだろう。しかし、新型コロナは収束しても完全な終息はない。人流が戻り外出が可能になっても、ワクチン接種3カ月後には抗体は1/4になる。
マスクの着用は手放せなくなると予想され、アイメークの需要はさらに高まると予想する。また、スキンケア製品やシャンプーなど、自宅でできるセルフケアアイテムが売上を伸ばすだろう。
10年後の世界
マスクを外しコロナ禍が終わっても、リモートでのテレワークは続くのだろうか? テレワークがあってもなくても、その先は、どんな世界に変わるのだろうか。
やはり直接出向いて、打合せや商談をする業務も復活すると思う。離れたところにいて出会う人と人との交流の機会も増え、そのために違った移動手段が生まれて世界に広がるかもしれない。
2021年4月22日にホンダは、10年後のアーバンエアモビリティ(人や物を空で輸送する都市交通システム)のためのeVTOL(イーブイトール、electric Vertical Take-Off and Landingの略)を作ると発表した(図3)。
eVTOLとヘリコプターの違いは、前者がバッテリーからの電力で駆動する独立したモーターを持つ複数のプロペラを備えているのに対し、後者は巨大で騒がしいローターを上部に備えていることである。つまりeVTOLは通常、より安全で静か、そしてクリーンであることになる。
まるで動力源が電気で静かに空を飛ぶSF小説のような話である。中国、ドイツなどが先行して、トヨタ、ボーイング、エアバス、ベルでも実証実験が盛んだ。
このイノベーションは、ドローンの技術をベースに自動操縦機能も視野に入れた開発競争が激化している。近距離の移動、物資の輸送や観光遊覧などの事業から始まり、空飛ぶタクシーや都市間での送迎サービスが予想される。
都市間の移動が実用化されれば高速道路などの利用はなくなる。渋滞を気にせずビジネスクラス程度での利用料金を目指しているようだ。
もちろん本格導入には、航続距離を保つバッテリーや法整備の問題など課題は多いが、2030年に30兆円の市場規模になると予測される。
鎌倉から六本木まで20分、遠くに居ても短時間で会うことができれば人は出向く。無人島なら化粧の必要はないが、人と人が出会う機会が多い世界になれば、これまで以上に化粧品需要は増えると思う。
おわりに
「和楽器バンド」をご存じだろうか(図4)。AKBのような48や46とはちょっと違う。初音ミクのカバー「千本桜」のYouTubeの再生回数は1億4000万回を超えた。世界のマーケットを意識したロックと和楽器のバンドである。
ボーカルの鈴華は、音大ピアノ専攻卒業で数々の詩吟コンクールで1位を獲得し、師範の資格を持っている。彼女を筆頭に尺八・箏・三味線・和太鼓・ギター・ベース・ドラムという他に類を見ない楽器編成だ。
そのため、曲づくりは至難の業のようで、たった1つTVドラマの主題歌ために10カ月間に50曲も作曲し、歌を入れたデモテープを10本もつくったという。実力者たちでもその努力もすごい。
日本の化粧品産業の弱みについては、「海外で稼ぐ力が弱い」などと言われている。芸能界のような私たちの業界も、実力者たちの努力から新しい製品が生まれることを期待したい。