2011年1~9月のフレグランス輸入額は前年同期比19.4%減の160億1000万円と大幅な減少となった。やはり震災の爪痕は大きい。化粧品統計(同年1~8月)をみても、フレグランスは26億9400万円(同9%減)と伸び悩んだ。このような大苦戦の背景には根深い問題が起因している気がしてならない。
大苦戦の背景にあるもの、それは“香りのライバル”
2011年のフレグランス市場は東日本大震災という未曾有の災害に苛まれた。被災店は数多く、運よく被災を逃れた店舗も商品供給がままならない。余震が続く中、客足も途絶えがちだった。
しかし、取材を重ねていくうちに震災によるダメージは予想したほどではなかったとする企業が多いことがわかった。3~4月は苦戦を強いられても初夏から盛り返しをみせ、現在はホリデー商戦に全力投球中というのが各社の状況である。つまり、輸入額が20%減少したことには他にも理由があるということだ。
香りを切り口にした商品は着実に増えている。ヘアケア、スキンケア、ランドリーまでカテゴリーは広がる一方である。しかし、本家本元のフレグランスが伸び悩んでいるのは何故か。
香り製品の裾野が広がった結果、フレグランスまで到達する以前に他のカテゴリーで香りを取り入れ、それで満足してしまっている感がある。特に日用品業界では香りによる差別化に力を注ぐ傾向にあり、柔軟剤や洗剤の残香を楽しむユーザーが増え、香りのバッティングを防ぐためにフレグランスを使わない人もいるだろう。
フレグランス自体もアイテムが広がり、いくつもの顔を持つようになった。ある関係者はこの現象を「香水がファジーになっており、立ち位置が曖昧である」と捉える。
幼少期から香りをたしなむ機会の少ない日本人がいざおしゃれを楽しむ年齢になった時、嗜好品としていきなりフレグランスを取り入れるのは勇気がいるだろう。スキンケアやメークの必要性は日々の暮らしの中で自然とすり込まれていく。しかし親世代のユーザーが少ないフレグランスはその機会に恵まれない人が多い。
また、媒体への露出度も他カテゴリーに比べると圧倒的に少ない。売上規模が少ないフレグランスに投入できる販促費用は限られている。フレグランスが檜舞台に上がるには渡るべき多くの河が存在する。
化粧品は肌につけるもの、香水は心につけるもの
往年の名香を創り上げたパフューマーはどのような想いで調香をしていたのだろうか。おそらく香料がもたらす心理的効果を主題に置いてはいない。旅先で出会った香りや風景、幼少の頃の記憶、日常の何気ないワンシーンなどもっとストーリー性があり、漠然としたイメージ像があり、そこには様々なメッセージも盛り込まれていたはずだ。
フレグランスは五感で楽しむべきものである。ディテールまで作り込まれたボトルやパッケージ、イメージビジュアルは視覚や触覚を刺激し、美味な食材の味を思い起こさせる香りも少なくない。商品に込められたメッセージや販売員のアドバイスに耳を傾ける時もあるだろう。
化粧品が肌につけるものなら、フレグランスは心につけるものである。パフューマーの想いが香りを通じてユーザーの心に届く時、フレグランスはその使命を全うするのではないだろうか。
フレグランスは日本の土壌に合わせ、独自の進化を遂げてきた。震災後に強まった低価格志向も重なり、さらに遠い存在になりつつある。その立ち位置から見直す時期に来ているのかもしれない。
※【週刊粧業】フレグランスの最新動向はコチラ
この記事は週刊粧業 掲載
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