資生堂は、独自に開発した「近赤外カメラシステム」をさらに発展させ、唇表面における水分量の精細な分布を可視化し、水分量を定量評価することに成功した。
これまで唇の水分量は、肌の水分量の測定に活用される接触型のデバイスを用いて測定することが一般的だったが、立体的な形状かつ狭い面積の唇の水分量を精度よく測定することは容易ではなく、唇全体の状態を細かく観察することは困難だった。また、この技術を活用し、保湿ケアによる唇表面の乾燥改善効果を確認したところ、水分量の微細な変化を捉え、人の実感に近い形で水分量を定量評価できることがわかった。
今後、唇表面のうるおい状態を解析する新たな技術として、高いスキンケア効果を併せ持つ口紅など新たな製品・サービスの開発へ応用していく。
従来の一般的な測定方法では、接触型のデバイスのプローブ(機器の先端部分)を唇表面に接触させて水分量を計測するため、凹凸のある形状の唇では計測のバラつきが大きく、精度よく測定することが困難だった。また、得られるデータはプローブを接触させた場所の数値情報だけであり、唇全体の状態を細かく観察することはできなかった。
これまで同社は、波長800~2500nmの近赤外光の吸収を可視化する近赤外カメラシステムを独自に開発し、肌や毛髪の水分量を測定する技術として、広く製品開発に活用してきた。
今回、唇の水分量の測定に、非接触で広範囲の水分量を簡便に測定できるこの独自技術を応用できると考え、研究に取り組んだ。
肌の水分量を測定する独自の
近赤外カメラシステムを唇へ応用
同社の近赤外カメラシステムの機材を唇に合わせてカスタマイズすることで唇の水分量を測定できるようにし、新たに開発した技術を用いて、乾燥により荒れている唇を観察した結果、水分量を精度よく可視化・定量評価できるようになり、唇に水分量のムラが存在することが明らかになった。
次に、保湿ケアによる唇の乾燥改善効果を調べた。保湿ケア前には下唇で特に乾燥が目立つ状態だったが、保湿ケアにより乾燥が改善し、2週間後には全体が均一に潤った状態に変化していることが視覚的・定量的に確認できた。さらに、この技術により定量された水分量の変化は、従来一般的に用いられてきた接触型のデバイスで測定したものと比較して、被験者自身が実感しているうるおい感や乾燥改善、ふっくら感の変化と近い傾向だった。
このことから、新システムは、細かい水分量分布の測定が可能になるだけではなく、人の実感に近い数値が得られる、優れた測定技術であることがわかった。
近赤外カメラシステムを
スキンケア効果の高い口紅の開発へ応用
口紅はメークアップ効果とスキンケア効果の両方が求められる製品だが、発色やつやといったメークアップ効果は検証が比較的容易である一方、スキンケア効果の検証には大規模な試験が必要で、長い時間がかかるものだった。
今回新たに開発した技術は、簡便かつ正確に唇の水分量を測定できるため、効率的に大規模な試験を展開することが可能だ。これにより、様々な成分や試作品のスキンケア効果を検証することが容易になり、より効果的で、付加価値の高い製品開発につながる。
実際に、より高いスキンケア効果をもつ口紅の開発に向けて、同社が行った試験では、この技術を応用することにより、口紅の連用によって幅広い年齢層の唇で水分量の改善を確認することができたという。
今後は、この技術を応用することで、さらに高いスキンケア効果を併せ持つ口紅の開発など、高付加価値な化粧品の開発を加速していく。