花王、菌・ウイルスに対する手指バリア機能を補う技術を開発

粧業日報 2023年7月27日号 3ページ

カンタンに言うと

  • 皮膚表面で菌・ウイルスの生存時間を大幅に短縮
花王、菌・ウイルスに対する手指バリア機能を補う技術を開発
 花王と京都府立医科大学大学院の研究グループは、手指に生来備わる「感染症に対するバリア機能(手指バリア)」のメカニズムを模倣することで、手肌に負荷なく、高い抗菌・抗ウイルス効果を持続させる技術の開発に成功した。

 この技術は、既存の手指衛生行動の合間に使用することで、医療現場や日常生活において、無意識に生じる接触感染のリスクを低減することに寄与することが期待される。今回の研究成果は、環境科学の学術誌「Environmental Technology & Innovation」にオンライン公開された。

 手指表面を介して菌やウイルス等の病原体がうつる「接触感染」は、さまざまな感染症における伝播の主要な経路の1つで、それを予防するためには、手洗いや消毒といった既存の手指衛生行動が推奨されている。しかしながら、日常生活では無意識のうちにさまざまな物に触れる機会も多く、目に見えない菌やウイルスに触れたタイミングで適切に手指衛生行動を実践することは現実的には難しい。

 一方、ヒトの手指には、さまざまな菌やウイルスに対する高いバリア機能が恒常的に備わっていることが知られていたが、その詳細は不明だった。同社は、この手指バリア機能に着目した研究を進め、感染症にかかりにくい群は、かかりやすい群に比べて手指の皮膚表面上の抗菌・抗ウイルス活性が高いことを初めて明らかにし、その理由として、汗腺から分泌される汗中の乳酸が、手指表面の弱酸性環境において菌の内部に侵入することにより効果を示すことや、手指皮膚表面の温度が高いほど乳酸が菌の細胞膜を透過しやすいことを見出している。
 
 今回は、これまでの知見に基づき、ヒトが本来有している菌やウイルスに対する皮膚表面上のバリア機能を高める製剤への応用を進めた。菌やウイルスに作用する乳酸を含有し、手指表面を弱酸性環境に保つため酸性(pH = 4.0)で皮膚に塗布することを前提とし、基材となる界面活性剤には酸性条件で安定するポリオキシエチレンアルキルエーテルを選択した。乳酸を菌の細胞膜に通過しやすくする条件の検討を重ねた結果、オキシエチレン基(EO)の数が少ないほど細胞膜の流動性の指標である「GP-Value」が低く、乳酸が細胞膜を通過しやすい状態になること、さらに乳酸との混合物を用いた場合のセラチア菌に対する抗菌活性も高くなることが明らかとなった。

 被験者4名の前腕で臨床試験を行い、通常の手指消毒剤が使用時で推奨される条件(皮膚1cm2あたり3μL)で手指バリアプロト製剤を塗布した場合に、セラチア菌に対する抗菌の効果が持続するかを検討した。その結果、手指バリアプロト製剤塗布120分後の皮膚表面において、抗菌活性は未塗布時に対して有意に高く維持していた。この結果は、今回開発した手指バリアプロト製剤が、実使用場面においても皮膚表面の感染に対するバリア機能を高く維持し、接触感染リスクを低減する可能性を示唆しているという。

 続いて、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスの感染力の評価について、ヒトを対象とする臨床試験は、感染リスクがあるため困難なことから、共同研究先の京都府立医科大学で開発されたヒト皮膚組織を用いたモデル皮膚評価系にて菌やウイルスの生存時間への効果を評価した。その結果、手指バリアプロト製剤の塗布により、セラチア菌、新型コロナウイルス、インフルエンザウイルスの生存時間がそれぞれ284時間から9時間、10.8時間から0.3時間、1.8時間から0.2時間と大幅に短縮されることを確認した。

 今回の研究から、ヒトが生来持つ菌やウイルスに対する手指バリア機能を補うために、乳酸とポリオキシエチレンアルキルエーテルが有効であること、これらを含む手指バリアプロト製剤を塗布することにより、皮膚表面を菌やウイルスが不活性化されやすい環境に変えることを明らかにした。手指バリアプロト製剤を手洗い後などに習慣的に手指に塗布することで、従来の手指衛生を補う役割を果たし、無意識に生じる接触感染のリスク低減につながることが期待される。
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