第94回 “無責任”から生まれる発想もある

【週刊粧業2024年3月25日号5面にて掲載】

 コロナ禍を経て、私が関わっている通販化粧品業界はますます競争が激化している。多くの企業が新規顧客獲得に苦戦を強いられるだけでなく、せっかく獲得した顧客さえ些細なきっかけでブランドスイッチされてしまうのが現状だ。そうならないためには、通販化粧品企業はこれまで以上に「お客様目線」を磨く必要があると思う。

 商品開発でも販促企画開発でも、実際に直接お客様に話を聞いて、その意見を取り入れることができれば、お客様満足度の高い商品、サービスを提供することができ、ファン化を促進することも可能だ。

 ところで、お客様目線を磨くために、もう一つ提案したい方法がある。それは、企業内での会議を、部門を超えたアイデア会議方式にすることだ。例えば商品開発なら、マーケティング部や研究・開発部での会議になりがちだが、ここに、販促部や営業部、経理部など社内のあらゆる部署の社員を参加させる。頭数が増えることでアイデアの数が増えるのはもちろんだが、本職ではないからこその斬新なアイデアや思いがけない視点が生まれやすい。また、消費者により近い意見・アイデアも出やすくなる。

 これを弊社では、「社内ブレインストーミング」と呼んで、通常の「社内会議」とは別の「アイデア抽出会議」と位置づけて得意先にお勧めしている。会議をする際は、一定のルールを設けると良い。「参加者は全員対等。社長も役員も社員も平等」「リーダーの指示に従って、指名された人が発言」「建設的に考える、否定は禁止」「自分の本音を表現する」などだ。各人が自由に、無責任に、ただし本音で発言・発表することこそが、この会議の狙いである。

 自由で無責任な発言だが、一人の消費者として本音を伝える。当然、使えない・実現不可能なことも多くなる。その中から、きらりと光るビジネスのシーズやネタを発見する。それを面倒がっていては飛躍したアイデアは生まれない。

 部門を超えたアイデア会議には、アイデアの拡散以外にも利点がある。スムーズなコミュニケーションは、チーム力向上やスピーディーな対応につながる。つまり社内コミュニケーションが円滑になることが期待できる。できればリラックスしたムードで実施したいので、通常の会議とは全く別の環境にした方が良い。お茶を飲んだり、お菓子を食べたりしながら、無礼講発言を誘発する工夫などをするとよい。

 この会議を実施した弊社の得意先では、たくさんの好例がある。

 例えばA社では、会議で抽出された課題に対して、若手社員が中心となって改善委員会が立ち上がり、課題解決業務の取り組みが始動。社員一人ひとりが課題を自分ごととして捉えられるようになったおかげで、様々な改善策が提案され続けているそうだ。

 またB社では、たった2時間で多くのアイデアが集まり、毎月の販促施策に活用。いくつかの当たり企画が生まれ、成功コンテンツを蓄積できるようになった。C社では、お客様目線で見た自社のNGポイントを見つける会議を実施し、200項目もの課題を抽出。課題解決プロジェクトが動き始め、部門別に改善策に取り組み始めたようだ。

 これらの解決策の一つひとつが、他社にできない自社だけのノウハウと強みになるだろう。良いことづくめのアイデア会議、これをやらない手はないと思う。
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鯉渕登志子

(株)フォー・レディー代表取締役

1982年㈱フォー・レディーを設立。大手メーカーの業態開発や通販MD企画のほか販促物制作などを手がける。これまでかかわった企業は50社余。女性ターゲットに徹する強いポリシーで、コンセプトづくりから具体的なクリエイティブ作業を行っている。特に通販ではブランディングをあわせて表現する手腕に定評がある。日本通信販売協会など講演実績多数。

http://www.forlady.co.jp/

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