花王は、分泌皮脂中の成分である不飽和脂肪酸が、皮膚のバリア機能に悪影響を及ぼし、乾燥を引き起こす可能性があることを見出した。
さらに、その不飽和脂肪酸を選択的に皮膚の上でトラップするため、不飽和脂肪酸と結びつくとスポンジ様構造をとるヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を活用した技術を開発した。
この技術を用いることで、不飽和脂肪酸の肌への接触を抑制することにつながるという。今回の研究成果は、第48回日本香粧品学会(2023年6月23~24日・東京都)、第74回コロイドおよび界面化学討論会(2023年9月12~15日・長野県)にて発表した。
皮膚から分泌される皮脂は、皮膚を乾燥から守る、いわば保湿の機能がある一方で、肌悩みに関する調査で、肌が脂っぽいと感じている人も、肌が乾燥しているという意識のある人と同様に約4割が冬の洗顔直後には乾燥するという悩みを持っていることがわかった。花王は、この課題に対して、皮脂の皮膚状態との関係性と皮脂の皮膚への影響を改めて調べた。
研究では、2021年5月、25~45歳の男女125名を対象に、洗顔から90分後の右頬の皮脂を採取し、同時に角層水分量・バリア機能の指標となるTEWL(経皮水分蒸散量)の計測を行い、その関連性を調べた。
一定の皮脂分泌量がある人と分泌量が少ない人に分けて解析を行ったところ、一定の分泌量があるグループにおいては、バリア機能が低いと、角層水分量が少ないという関係性が明らかになった。
さらに皮脂に含まれる成分の質的な解析を進めた結果、皮脂中の不飽和脂肪酸比率が高いほど、バリア機能が低いことを確認した。
つまり、一定の分泌量があり不飽和脂肪酸の比率が高いと、バリア機能が低く角層水分量が少ないことが考えられ、このことは今回の解析により、初めて明らかになった。一方、分泌皮脂量が少ないグループでは、これらの関係は確認できなかった。
以上の結果から、皮脂の量だけでなく質(不飽和脂肪酸比率)の違いが、バリア機能に関与し、角層水分量の低下など、皮膚に悪影響を及ぼしている可能性を初めて明らかにした。また、上記の知見から、皮脂に期待される保湿機能を維持しながらも、皮膚への悪影響の要因となりうる不飽和脂肪酸を低減させるための技術が必要だという結論に至った。
そこで花王は、不飽和脂肪酸のみをゲル化し、トラップする技術の開発に取り組んだ。様々なポリマーと皮脂に含まれる各成分を混合し、ゲル化するかどうかを観察した結果、ある種のHPCが、不飽和脂肪酸であるオレイン酸(OA)のみを即時的にゲル化することを見出した。
HPCにより不飽和脂肪酸であるOAのみをゲル化するメカニズムを探るため、詳細な解析を行った結果、HPCとOAとの間に水素結合が生じることがわかった。さらに、走査電子顕微鏡を用いて膜の解析を行ったところ、HPCとOAによって形成された膜には、独特のスポンジ様構造が確認された。HPCとOAが結合したスポンジ様構造の隙間には、多くのOAが取り込まれてゲル化していると推察される。肌の上で不飽和脂肪酸の1つであるOAをトラップすることで、皮膚に接触しにくくできれば、皮膚への悪影響を抑制する効果が期待されると考えられた。
今回得られた知見は、今後、皮脂が引き起こす肌あれや乾燥の悩みを解決するという新たな視点に立ったスキンケア製品の開発につなげていく。