「リポソーム化」や「ナノカプセル技術」は、今では化粧品業界でも既知の技術だが、もとは製薬技術だった。化粧品業界では、こうした製薬業界で一般的に用いられていた科学的技術や医学的知見を活用して開発されたスキンケア化粧品を「サイエンスコスメ」とカテゴライズして、ブランドの付加価値を高める動きが顕在化してきた。
中には、何十年も前から研究機関と共同研究を行い、最近になって日の目を見た技術・製品もある。徐々に化粧品市場で存在感を示しつつある「サイエンスコスメ」カテゴリーは今後どのような広がりを見せるのか。
ソフィアリンクスの三原誠史代表に、その動向について分析してもらった。
先駆けはコーセーの「モイスチュア
リポソーム」、資生堂が注力事業に
――「サイエンスコスメ」の起源はいつだと考えられますか。
三原 「サイエンスコスメ」という概念は業界では現在、明確な定義づけが行われていないが、古くはコーセーコスメデコルテの「モイスチュアリポソーム」までさかのぼることができる。1984年頃に、医薬品業界のデリバリー技術として研究されていた「リポソーム」に着目し、8年間にも及ぶ研究期間を経て商品化された。以降、一度も処方を変えずとも売れ続けロングセラー商品で、「サイエンスコスメ」の先駆けともいえる。
リポソームに関する研究は現在も継続して行われており、2015年には「低粘度剤型への配合は難しい」という定説を覆し、リポソーム配合化粧水「コスメデコルテ リポソーム トリートメント リキッド」が投入され大きな注目と話題を呼んだ。
最近よく目にするコンセプトだと、「リポソーム化」の他に製薬技術を活用したものでは「ドラッグデリバリーシステム(DDS)」「ナノカプセル技術」が挙げられる。また、「幹細胞」「遺伝子」「ホルモン」「神経細胞」「免疫」など人体組織に着目したものもある。
――他にはどのような取り組みがありますか。
三原 例えばアルビオンが2013年10月に発売した導入美容液「エクラフチュール」は、創薬ベンチャーのナノキャリア社と共同開発した「サイエンスコスメ」だ。ナノキャリア社が研究している最先端のドラッグデリバリーシステム「ナノセスタ」を応用し、アルビオンの化粧品領域における知見とナノキャリアの医薬品領域の技術シーズを融合させることで、キー成分の「ナノセスタBL」が誕生した。
もともとドラッグデリバリーシステムは、抗ガン剤用に開発された技術で、組織の親水性のある部分と親油性のある部分に、別々に効果的な成分を届ける作用を持つ。これと、アルビオンが厳選した「リュウキュウガネブ」と「クパスバター」を融合させて、「必要な場所に必要な成分を送り届ける」ことに成功した事例だ。
この技術に裏打ちされた商品力の高さから、1カ月で約10万本、初年度で37万本を売上げ、同商品はアルビオン史上最高の売上げを記録した。