【週刊粧業2020年9月21日号6面にて掲載】
日本のスーパーマーケットチェーンにとって、生鮮や惣菜をセンターで加工するか、インストアで加工するかは長年の課題である。
最近では、センターにおける加工技術や鮮度管理技術の向上に加え、人手不足の深刻化もあってセンター加工の比重が高くなっている。
だが、競争がとくに激しいエリアなどでは、インストア加工による鮮度での差別化も重要になっている。
東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県に137店を展開する「いなげや」は、今年で創業120年という旧い歴史を持っている。
だが同社は1970年代の初めから本格的な生鮮センターやドライセンターを開設するなどで物流ネットワークの構築を業界に先駆けて進めて来た。
1976年には、生鮮食品の一品、一品に賞味期限を表示する「ODS」(オープン デイティング システム)を我が国で初めて導入している。
また生鮮センターの商品を直接売場まで配送する「コールドボックス」も導入した。こうしたチェーンストアづくりによる体制化を進めて来たのが2代目社長の猿渡栄一(さわたり えいいち)氏だった。
同氏の急逝により1977年、3代目社長に就任した猿渡清司氏は、物流ネットワークをさらに整備、強化する一方、グループのドラッグストア、「ウェルパーク」との共同出店を積極的に推進するなどで企業規模を拡大させ、売上高1000億円を突破し東証一部上場を果たした。
2000年の創業100周年を期に、猿渡家以外から初めて遠藤正敏氏が社長に就任し、店舗の建替移転を始めとした構造改革を推進する。
また高質スーパーマーケットの「三浦屋」を傘下に収めるなどした。なお「秀和」による同社株式の買い占め問題は、最終的にイオンが株式15%を保有して業務提携することで決着した。
そして2013年から成瀬直人氏が社長に就任し、今年4月1日付で会長となるまで8年間、同社を牽引した。
就任早々成瀬社長は、2013年から2015年までの3年間、「惣菜を柱に生鮮を強化する改装」を積極的に推進した。
「インストア加工を強化して売上は確かに向上しましたが、一方、人件費を中心とした経費増により、売上と経費のバランスが悪くなりました。このため現在は、オペレーション効率を重視する改装に大きく戦略を転換しています。惣菜、ベーカリー、生鮮の各売場を売上に見合った形に縮め、時間帯に合わせて商品を入れ換えていくことにしました。また冷食、雑貨、加工食品の売場を広げたことで売上も向上して人員も圧縮されました」
競争への対応をねらいとしてインストア加工の比率を高めたが、人手不足を背景とした人件費の増加を吸収できず、センターを活用したオペレーションの効率化に戦略を転換せざるを得なかった。
なお物流インフラの整備は一応、惣菜センターを除いてほぼ完了しているため、今後はその効率化をいかに進めるかが最大の課題となっている。
(次回は、サツドラホールディングス 冨山睦浩会長)