常に新しいトレンドが生まれている印象がある中国だが、「美」の基準に関してはやや保守的なところがある。その代表的なものとして「美白」を求める傾向が強いことがあげられる。昨今においては表現しにくい言葉となっているが、中国ではいまだ現役のニーズとして発信されている「美白」について考えてみたい。
現在、多様性を尊重する意味で「美白」のような「肌が白い=理想」という表現を改める動きが進んでいる。これはボーダーレスな社会の実現に向けて、非常に重要な要素であると感じる。
しかし、中国の消費者にとっては、いまだ「美白」は追い求めるべき肌の状態として認知されており、SNS上でも「美白」という言葉が広く言及されている。
中国では「美」に関しては、伝統的な感覚が依然強いことが背景にある。例えば、成功している女性を意味する「白富美(色白で、お金持ちで美しい)」といった言葉も、一般的に用いられている。
また、美白商品市場に関する公的データはないが、複数の調査会社の試算をみると、600億元~1200億元と幅が広いものの、非常に大きな市場となっていることが見て取れる。
そして、中国のリサーチ会社「艾瑞諮詢」が中国Z世代(1995年以降に生まれた世代)のコスメニーズを調査したレポートでは、Z世代が最も気にしているコスメニーズが「美白」であった。
さらに、近年は女性に限ったことではない。中国のシンクタンクCBN DATAと化粧品ブランド「Clinique」が共同で行った調査では、調査対象の91%の男性が「美白スキンケアを試してみたい」と回答している。どうやら中国では美白ニーズのジェンダーレス化が進んでいる模様である。
こうした状況を客観的に見るため、当社では中国のSNSのクチコミ分析を実施した。
それを見ると、2020年4月から2021年3月までの12カ月間で、平均1万7000件もの「美白」関連キーワードが検出され、非常に一般化した言葉であることがわかった。(ただし簡易な調査のため、歯の美白に関連したSNS投稿等のノイズも混じっている)
20年5月と11月、21年3月で件数が増えているのは、この時期の商戦(618、W11、3.8婦人節)向けに多くのスキンケア商品の訴求が行われたためと考えられる。中国の化粧品業界においては、美白は重要な領域で競争が激しいのである。
なお、SNSで「美白」は、「補水」や「保湿」という言葉とともに語られている。中国では、肌に水分が十分に浸透することが、肌つやを良くし、美白につながるという認識がある。
さらに、近年注目の成分である「ニコチンアミド」も人気が高く、ここでもかつて紹介した成分党と呼ばれる、成分に強いこだわりを有する消費者の影響がみられる。また、手軽な美白効果をもたらす化粧品として「フェイスマスク」が利用されていることも見えてくる。
今回のクチコミ調査で唯一、具体的な商品名として上がったのがSK₋Ⅱの「ジェノプティクス オーラ エッセンス」、中国での愛称は電球を意味する「小灯泡」である。
同商品はその美白効果の高さが人気となっており、ウェイボーだけでなく、体験共有アプリ「小紅書(RED)」でも10万件を超えるノートが確認できる。商品の使用感に関する投稿も多く、「美白」を代表するエッセンスとして認知されていると考えられる。
世界的には避けられつつあるが、中国ではいまだにポジティブな意味として認知、かつ求められている「美白」。
最近は同時に「提亮(明るさを高める)」という表現も用いられ浸透しつつある。中国では表層的な表現に関わらず、伝統的な肌質概念は当面継続されるだろう。