第30回 オープンデータとクチコミで最大商戦のコスメ市場を見る

【週刊粧業2021年12月6日5面にて掲載】

 中国最大の商戦「ダブルイレブン(W11)」が終了した。商戦を包む雰囲気は昨年と大きく異なったが、それでも全体の流通総額は増加傾向が続いている。今回はその2021年W11のコスメ業界の様子を俯瞰してみよう。

 最終的な結果としてはT‐Mallで「5403億元」、JD.comでは「3491億元」という取引総額が発表されている。

 T‐Mallにおけるスキンケアの売上では、トップ3の顔ぶれは昨年から変わらなかったものの、昨年の覇者である「エスティーローダー」が「ロレアル」に首位の座を明け渡す結果になっている。

 今後もトップ争いは「ランコム」を含めた3ブランドが繰り広げていくことになるのではと予想される。

 また4位以下も顔ぶれに大きな変化はないが、「資生堂」、そして中国国産のスキンケアブランド「Winona」がランクを上げた。

 メークアップでも欧米大手がトップ3を占めた。「エスティーローダー」はベースメークで売上を伸ばし、2位。スキンケア部門ではトップを「ロレアル」に奪われたが、スキンケアとメークアップを合わせたコスメという括りでは単独トップを取っていると考えられる。

 また、「花西子」「完美日記(PerfectDiary)」も手堅くランクインしている。特に花西子は4位につけて、欧米ブランドの占めるトップをうかがう位置につけた。

 そして、注目すべきは資生堂グループの「CPB」が9位にランクインしたことである。同ブランドはスキンケアの印象も強いのだが、今年はメークアップのギフトボックス、また抖音を見ているとベースメークなどの登場が多い。口紅やアイシャドウなどは欧米系、中国系に譲るものの、ベースメークにおいて市場の切り込みをかけているような印象を受ける。

 トレンドExpressではこうしたW11の状況を把握するべく、独自のクチコミ調査を行い『2021年W11振り返りレポート』を作製した。

 ウェイボー上での「W11×買った」というクチコミにおいては、「化粧品」セグメントが最も多く、続く「衣類」の倍以上の投稿件数を得ている。また、ブランドごとで整理した場合もデジタル系が1位、2位を占めたが、それに続くのは「花西子」「ロレアル」「エスティーローダー」、そして7位「完美日記」、10位「Winona」と、上位10ブランドの半数を化粧品が押さえる結果となっている(2020年は3ブランド)。

 日系化粧品ブランドとしては「資生堂」が23位、また資本としては欧米系だが中国では日系と認知されている「SK-Ⅱ」が22位に位置している。

 こうしたW11における化粧品勢の活躍背景だが、仮説としては、世界的なコロナ禍で相対的に消費が堅調で、世界第2位の化粧品大国である中国を海外ブランドが有望視してマーケティング活動を活発化し、それが中国化粧品業界全体の盛り上がりにつながったということが考えうる。

 実際に同レポートの「W11」単独でのクチコミキーワードでも「化粧品」というワードがセグメントとしては唯一キーワードランキングトップ20に入っており、2021年W11における化粧品熱を感じさせる。

 ただこれが意味することは、欧米系が極めて強力に中国市場拡大を推し進めていることになり、日系ブランドにとっては脅威となる。

 一方、それによってこれまで躍進していた中国系の勢いも若干緩まりつつあり、Winona、完美日記、花西子に次ぐブランドが現れていない。

 こうした欧米系の攻勢と中国系の鈍化の間に何らかの好機を見出したいところだ。

 日本の化粧品業界はより細かな目で中国市場を観察せねばならない。
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森下 智史

株式会社NOVARCA 「中国トレンドExpress」編集長

高校卒業後、約10か月間日本で中国語を学ぶ。1998年2月~上海で学部および大学院(中国古代史)で学ぶ。 2005年に卒業後、上海で在留邦人向け情報誌の編集・ライターとして業務。 2012年に日系市場調査会社上海現地法人でマーケティングリサーチ(産業調査)業務に携わる。 2015年5月、17年間の中国生活に区切りをつけ、帰国。東京で日中間のビジネスコンサルティング業務を経て2018年1月にトレンドExpress(現在はNOVARCA)入社。現在に至る。

https://www.novarca.jp/

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