第86回 「お客様の本音」が化粧品メーカーを救う

【週刊粧業2023年7月17日号10面にて掲載】

 多くの通販化粧品会社の経営者は、自社の社員に「もっとお客様の声をよく聴くように」「お客様のご意見を施策に取り入れて」などと指示していると思う。弊社にお客様調査を依頼してくる通販化粧品会社様もそのような要望をお持ちのことが多い。中には、「注文時以外に、お客様のお声やご意見を直接聞いたことがない」という会社もある。そして実際に「社員たちでインタビューを実施してみたが、思うような意見を聞くことができなかった……」という声もよく聞く。

 弊社ではこれまでの経験からさまざまな工夫をして、お客様調査やインタビューを実施しているため、その苦労は身に染みている。お客様に本音で話してもらうのは、簡単なことではない。

 では、どうすればお客様の本音を探ることができるのだろうか。調査やお声を集めるにも目的があるはずだ。商品や容器の評価か、サービスや施策の要望か、目的に応じたご意見、要望の声を集めなければならない。

 そのため最も大切なのは、“誰に回答してもらうか”だ。広く一般的なお客様を集めても、コモディティ型商品ならいざ知らず、自社のお客様の声にはならない。商品や容器について伺う場合は、対象商品を買い続けてくれているお客様や逆に止めてしまったお客様に聞く。サービスの要望などはこれまでのキャンペーンでの購入履歴や定期購入の方や都度買いのお客様等、調査目的に合わせたお客様の意見や要望を集める。

 またお客様は買い物履歴に合わせた“階層(ランク別)”に分けてご意見を伺うべきだ。

 例えば弊社でグループインタビューを行う際は、購入歴と購入金額をもとに顧客をセグメントし、ロイヤル、ライト、離脱等の顧客階層別に5~6人毎のグループに分けてお話しを聞く。これをさらに購入商材や年代別区分に細かく分類することもある。「どんなお客様」に回答してもらうかを明確にしたうえで、その特性をふまえたインタビュー内容を細かく設定している。そうしないと具体的に突っ込んだご意見や要望を聞くことができない。

 また、「どんなお客様か」を明確にしたら、その背景を探ることも重要だ。お客様の発言の裏には、必ず「生活」が存在する。そのため、弊社では調査の際に、お客様の出身地や趣味嗜好、毎日の習慣、見ているテレビや雑誌などといったライフスタイルも併せて確認している。そのお客様の背景を細かく知り、気持ちに寄り添いながら質問を重ねなければ、本音は引き出せない。

 また、他社商品の情報や美容知識なども必要だ。質問者は、お客様が持っているだろう情報や知識を掌握し、「共感する態度」を持って接しなければならない。

 次に、“なぜお声を集めるか”だ。「何のためにご意見を聞くアンケートか」が明らかであれば、自然と質問内容も決まり、お客様も適した回答をしやすくなる。

 また「お客様の声を取り入れる」という目的であれば、良い意見も悪い意見も同じ回答として扱うことが意外と難しい。自社商品を貶されて、思わずマイナスの反応をしてしまう会社様は多い。しかし同じ回答として扱うよう徹底されなければ、“忖度会議”になってしまう。

 さらに、“本音を話しやすい環境づくり”も必要だ。アンケートであれば、答えやすい質問文、回答しやすい順番、手軽さを心がけたい。また、インタビューでは、質問者が公平な立場で傾聴することが求められる。企業の商品開発担当者に本音で商品のクレームを言えるお客様は少なく、どうしても良いことばかりになりがちだ。担当者ではない、フラットな立場である外部の人間の方が好ましいこともある。

 星の数ほど化粧品メーカーがあり、新たなブランドが次々と生まれる今日。ついには自分用の化粧品も簡単に作れる時代に突入している。その中で自分の肌に合うものを選び、お手入れを続けているお客様は企業側からすれば、「プロの消費者」だ。そんなプロに「ご意見伺い」を徹底して行わず、寄り添わない化粧品メーカーに未来はない。

 ごまかしや押しつけをせず、真摯にお客様の声に耳を傾け、その要望に応え続ける。それこそが化粧品ビジネスの最大の使命ではないだろうか。
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鯉渕登志子

(株)フォー・レディー代表取締役

1982年㈱フォー・レディーを設立。大手メーカーの業態開発や通販MD企画のほか販促物制作などを手がける。これまでかかわった企業は50社余。女性ターゲットに徹する強いポリシーで、コンセプトづくりから具体的なクリエイティブ作業を行っている。特に通販ではブランディングをあわせて表現する手腕に定評がある。日本通信販売協会など講演実績多数。

http://www.forlady.co.jp/

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