第6回 ブルーカーボンと化粧品産業との関わり

【週刊粧業2024年2月26日号4面にて掲載】

 昨年から特に、「ブルーカーボン」というワードをよく聞く。昨年12月にUAEで開催されていたCOP28(第28回気候変動締約国会議)でも話題になった。まだ国内では表面的な理解が多いのだが、グローバルでは、ブルーカーボンとは主に海のCO2吸収源や生物多様性保全という点で注目されている。今回は、ブルーカーボンについて根本的な課題と化粧品業界における取り組みなどを解説する。

 ブルーカーボンとは海でのCO2吸収源をどう高めるかということであり、つまりは湿地帯をはじめとした沿岸部などの保全やサンゴの保全がメインの話題だ。昨年開催した世界海洋デーセミナー等々でも述べてきたが、海は森林よりも膨大なCO2を吸収する。海のCO2吸収源は、海の海藻だけでなく、沿岸部によく生息しているマングローブ林などが吸収源となる。湿地帯(Wetland)とは、このようなマングローブ林周辺が生育する沿岸部のことをいう。

 湿地帯では、過剰な開発ニーズに応えるためにマングローブ林を伐採するなど、すでに地球上の湿地帯の約85%が喪失している。湿地帯のマングローブ林が減少すると、その周辺に住む小さな海洋生物の住処や産卵場所がなくなり、マングローブ林周辺に生息するそれらを食するサメやエイも、それぞれ50種以上絶滅しかけているという事実がある。また、マングローブ林が減少することで(葉による)CO2吸収源が少なくなる。

 近年では、マイナス1.5℃の達成には、このような沿岸部の保全が重要なのではないかということがグローバルで議論されている。

 実はサンゴとも深くかかわり、サンゴの周りには共生藻があるのだが、サンゴはいまや地球規模で絶滅危惧種になっており、サンゴが減少すれば、またその共生藻も減り、CO2吸収源を失うことになる。(共生藻も減少すると、サンゴも減少する。)ブルーカーボンは海藻を含め、このように一つの種だけではなく、海の生態系保全や生物多様性に深く関わっている。

 マングローブ由来の原料は古来より医薬品や健康食品、木材やエネルギー資材などに広く使用されてきているが、マングローブそのものだけでなく、化粧品で馴染みが多いパーム油も、過剰な先進国ニーズに対応しようとしてマングローブ林を伐採しアブラヤシ農園にしてしまうことなどが問題になっている。化粧品産業では、化粧品原料として多く使用するパーム油採取において湿地帯の環境を破壊していないかなど、原料の持続可能性をしっかり確認する必要がある。

 また、サンゴ等に覆い被さるとされるマイクロプラスチックにも留意し、Vol.4「クリーンビューティーの分野で進むEU規制」でも述べたように、サンゴについては、UVケアに含まれる一部ケミカルにも注意が必要になる。マングローブ林やサンゴを含む湿地帯の保全が、統合的解決のカギとなりえる。
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長井美有紀

日本サステナブル化粧品振興機構 代表理事

化粧品業界に長く、早くから「環境×化粧品」を提唱。業界・企業・一般に化粧品の環境・社会課題について解く。サステナブル美容の専門家としても活躍し、主に生物多様性と産業について研究。講演や執筆、大学での講義などで幅広く活躍。

https://sustainable-cosme.org/

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