コーセー・小林一俊社長 2024年新春インタビュー

週刊粧業 2024年1月1日号 8ページ

カンタンに言うと

  • 新型コロナの収束を見据え「守り」から「攻め」に転換
  • 韓国・中国で苦戦した一方、日本とタルトが業績を牽引
  • 欧州とグローバルサウスの戦略強化に向け新たな体制を構築
  • 挑戦することの大切さを訴え失敗を恐れない風土づくりへ
  • 想定外の出来事が起こってもカバーできる強い基盤を構築
コーセー・小林一俊社長 2024年新春インタビュー
 コーセーは、中長期ビジョン「VISION2026」の中で、グローバル(Global)・ジェンダー(Gender)・ジェネレーション(Generation)のそれぞれの頭文字をとった「3G」を、新たなお客さまづくりの拡大領域とし、性別や年齢に捉われないアダプタビリティの考えに基づく取り組みを強化している。

 同時に、コーポレートメッセージ「美しい知恵、人へ、地球へ。」を発信し、事業成長と持続可能な社会の実現の両立を目指している。

 2024年は「守りから攻めに転じていく」と語る小林一俊社長に新年度の抱負についてインタビューした。

韓国・中国で苦戦した一方、
日本とタルトが業績を牽引

 ――まず、2023年を振り返っていただけますか。

 小林 日本経済は、コロナ禍からの経済社会活動の正常化が進み、景気の緩やかな回復基調が続きました。飲食などのサービスを中心に個人消費が持ち直し、設備投資も増加傾向が続いています。また、円安を背景としたインバウンド需要が堅調に推移し、8月には中国政府による日本への団体旅行解禁に伴い、中国からの訪日客が増加傾向にあります。

 一方、消費者物価は、政府による物価高対策の延長により伸び率が鈍化しているものの、実質賃金の低迷の長期化により、個人消費の回復が遅れる可能性があります。さらに世界的な高金利・高インフレが続き、海外経済の減速による景気の下振れ懸念は残ります。

 当社グループが主に事業展開しているアジア・米国経済においては、中国では景気回復の動きに足踏みがみられ、成長率は鈍化しました。中国政府は景気支援を強化し、第3四半期に入って個人消費が持ち直す一方、不動産市場の低迷は続いています。それ以外のアジア経済では、回復基調が続いています。米国においては、高止まりする市場金利やインフレ率による景気後退懸念が残るものの、個人消費は堅調に推移しています。

 このような市場環境の中、当社グループは中長期ビジョン「VISION2026」を推進しており、「世界で存在感のある企業への進化」を目指しています。当期は「PHASEⅡ:世界での存在感拡大と更なる顧客体験の追求」の2年目として、基本戦略のもと、グローバルな事業展開の促進、事業領域および顧客層の拡大、デジタルコミュニケーションの強化、成長を支える経営基盤の構築に取り組んでいます。

 当社グループの2023年12月期第3四半期業績については、韓国・中国での売上が減少した一方、日本や欧米を中心に展開する「タルト」が実績を牽引したことにより、売上高は前年同期比9.0%増の2189億6100万円となり、連結売上高に占める海外売上高の割合は37%となりました。

 化粧品事業においては、ハイプレステージ(5.8%の増収)の主力ブランド「コスメデコルテ」が韓国や中国の免税チャネルで苦戦し、8月の福島原発処理水の海洋放出後は大きく影響を受けましたが、日本国内が引き続き好調に推移しました。それ以外の主要ブランドでは「アルビオン」「ジルスチュアート」「アディクション」などが伸長しました。欧米で展開する「タルト」は、主力商品の売上を伸ばしました。

 プレステージ(22.2%の増収)では、「雪肌精」や「ONE BY KOSÉ」の回復基調が継続しています。これらの結果、売上高は8.5%増の1744億6800万円となりました。

 コスメタリー事業においては、「ヴィセ」やコーセーコスメポートの「クリアターン」が好調に推移した結果、売上高は10.4%増の428億8100万円となりました。

 その他の事業は、ホテルやゴルフ場向けアメニティ製品の販売が増加したため、売上高は23.6%増の16億1100万円となりました。

欧州とグローバルサウスの
戦略強化に向け新たな体制を構築

 ――中長期ビジョン「VISION2026」では、「ブランドのグローバル展開加速」「独自性のある商品の積極的開発」「新たな成長領域へのチャレンジ」という3つの成長戦略を推進しています。まず、「ブランドのグローバル展開加速」に向けてどのように取り組んでいきますか。

 小林 2024年以降は、欧米やグローバルサウスでの展開をさらに加速していかねばならないと考えています。

 中でも注目している国は化粧品文化を育み、欧州市場をリードするフランスです。昨年12月に欧州に視察に行きましたが、オリンピックが開催される前段階でDFSに「コスメデコルテ」の免税店をオープンしました。本年度、パリ支店を設置し、欧州戦略を加速させます。

 インドやインドネシアなど南半球の新興国・途上国からなるグローバルサウスにも注目しています。これまでは巨大市場の中国にやや注力し過ぎてしまいましたが、新たに担当部署を設けましたので、ここを起点に人口増加に伴い継続的なGDP成長が期待できるグローバルサウス、中でもアジアを中心にしっかりブランドを浸透させていきます。

 ――「独自性のある商品の積極的開発」についてはいかがですか。

 小林 2023年に発売された商品を振り返ると、ハイプレステージだけでなく、プレステージ、コスメタリーにおいてもヒット商品が幾つも誕生しました。ベストコスメやパッケージ大賞などを数多く受賞したことが物語るとおり、商品づくりという面において話題を集めた1年でした。

 ハイプレステージにおいては「コスメデコルテ」や「ジルスチュアート」「アディクション」で発売するものがことごとくヒットを記録しましたし、プレステージにおいては「ヴィセ」や「ONE BY KOSÉ」のヒットによりドラッグストアにおける存在感が高まってきました。

 ――「新たな成長領域へのチャレンジ」についてはいかがですか。

 小林 当社では、これからの新たな「お客さまづくり」のキーワードに、グローバル(Global)・ジェンダー(Gender)・ジェネレーション(Generation)のそれぞれの頭文字をとった「3G」を掲げ、性別や年齢に捉われず、より幅広い人々をお客さまと捉え、一人でも多くの方々に寄り添いながら顧客の創造に取り組んでいます。

 特に「グローバル」については喫緊の取り組むべき課題と認識しています。当社が掲げる「世界で存在感のある 究極の高ロイヤルティ企業」の実現に向け、グローバル展開を急ピッチで進めていかねばなりません。

 何よりもスピード感が大事です。ともすると日本で売れているものをそのまま海外に持っていこうと考えがちですが、これまでとは真逆の発想で、各国の市場に合わせてローカライズされた製品を的確かつ迅速に届けていくことも重要です。加えて各国の商習慣や薬事規制をしっかり把握し、踏み込んでいく大胆さが必要であり、担当部署を設けてしっかり対応していきます。

 「ジェンダー」については、今までは化粧品商材のお客さまは女性が大半という先入観にとらわれてしまいがちでしたが、これまでの固定観念や思い込みを捨て去るべき時が来ています。

 「ジェネレーション」については、若年層の獲得は着実に進んでいますが、子どもたちにスポーツシーンでの日やけ止めの重要性を啓発する活動や、幼少期からスキンケアを行うことの重要性を伝える活動を積極的に推進していきます。

 ――2023年度は流通チャネルの枠を超えたアプローチを推進しました。進捗状況はいかがですか。

 小林 コスメデコルテでは事業部が主体となって一気通貫で商品企画から販促、宣伝、PRまで取り組む体制が最もうまく機能しており、他ブランドにおいても事業部が一気通貫で責任を持って推進できる体制に改めました。

 バトンタッチ方式では難しかった商品企画担当者による広告宣伝への関わりが密になったことで、商品に込めた熱い想いを広告宣伝に落とし込める体制が整いました。今までにない独自性のあるキャラクターの選定など、PRの仕方や広告内容が変わっていくことを期待しています。

挑戦することの大切さを訴え
失敗を恐れない風土づくりへ

 ――NHKのテレビ番組「神田伯山のこれがわが社の黒歴史」に出演されました。その狙いについて教えてください。

 小林 この10年で入社してきた社員が多数を占めていますので、今から約40年前の1980年代に当社が置かれていた厳しい状況を知る機会がありません。そうした中、NHKさんより苦労の歴史にスポットを当て、失敗の物語をつくりたいというリクエストがありましたので、快く引き受けることにしました。

 当時は、競合他社が一世を風靡するようなTVCMを次々と打っている一方で、当社は年に2~3本、有名女優を使わない地味な広告を打つのが精一杯でした。また、百貨店やGMS、化粧品専門店では同じブランドの化粧品を販売していましたので、差別化が図れず次第に撤退を迫られ売場が失われていく事態に直面しました。

 主戦場である百貨店の化粧品売場では海外の高級ブランドに席巻され、このままでは追い出されてしまうピンチに陥りました。危機感を抱いた私は社運を賭けた新ブランドを開発しましたが、既存ブランドとのカニバリを起こし、チャネル政策も迷走したことで最終的にはブランドを終了するという道を辿りました。

 この教訓を受けて一番伝えたかったことは、「チャレンジすることの大切さ」であり、チャレンジしたうえでの失敗は許されるということです。若い頃は社長の私でも失敗をしているんだから思い切ったことをやって欲しいというメッセージを発信したかったのですが、30分という短い番組でしたので、その全てを伝え切ることはできませんでした。

 そこで広報メンバーが収録の音源をもとにインタビューの内容を再編集して、社内のイントラネットにアップしてくれました。それを閲覧した社員からは、その当時の当社が置かれていた厳しい状況やそれを打破するために経営資源が限られる中で必死になって先輩社員たちが奔走していた様子がとてもよく理解できたと概ね高評価を得られています。また、若い社員からは失敗を恐れずにチャレンジしたいという前向きな声も多く上がってきています。

 ――コーセー サステナビリティ プランの進捗状況について教えてください。

 小林 現在、我々を取り巻く社会環境は大きく変容しつつあります。よりよい未来を見据えた新たな価値づくりの視点から持続可能な社会の実現を目指し、今まで以上に英知と感性を活かしていく必要があると考えます。

 山積する社会課題を解決するには1社では限界がありますので、花王さんとは化粧品事業のサステナビリティ領域において包括的に協働しています。業界をまたいで産業界と連携していく必要性も強く感じています。

 ――今年は雪肌精が40周年を迎えます。

 小林 雪肌精は当社の看板商品であり、インバウンドの最盛期には売上拡大に大きく貢献しましたが、ロングセラーということがあり、リスクを取らず中身もパッケージもほとんど改良せずに来てしまったことで、近年は成長に陰りがみえていました。今一度、当社の代表商品として国内のみならずグローバルにも浸透を図るべく、2024年は重点グローバルブランドの中でも雪肌精に注力していきます。

 ――アメニティの新ブランド「ネイチャーアンドコー」の発売や高級ホテル・アマンの新スキンケアシリーズのOEM受託など、アメニティ領域への展開を強化しています。その狙いを教えてください。

 小林 訪日外国人旅行者数がコロナ前の水準を上回り、宿泊施設が活況を呈する中、我々は様々な国々の訪日外国人旅行者が来店することを想定して売場を整備していく必要がありますし、旅行者との最大の接点となる宿泊施設でのアプローチをさらに強化していくことが重要になります。それらの接点を通じて日本の化粧品の素晴らしさをより多くの外国人の方々に知って欲しいと願っています。

 アメニティ強化のきっかけはゴルフ場でした。男女兼用で洗面台に置いても見栄えのするアイテムを探していたあるゴルフ場にプレディアを提案したところ評判がよかったことがヒントとなり、専用商品として「ネイチャーアンドコー」をつくることを決めました。アメニティを通じて多くの接点を持つことでコーセーブランドのさらなる浸透を図っていきます。

想定外の出来事が起こっても
カバーできる強い基盤を構築

 ――先行きの不透明感が増していますが、2024年の課題、抱負についてお聞かせください。

 小林 まずは中国におけるALPS処理水の海洋放出に端を発した風評被害が沈静化に向かっていって欲しいと願っています。

 一方、南アルプス工場は、大阪・関西万博と同じく、建設費用や人材確保の面で影響があり、現在鋭意検討を進めています。いずれにせよ、私どもにとってはこれからVISION2026を実現するには必要な工場になりますので、早期に進めていきたいと思います。

 処理水問題が起こったことは想定外でしたが、日本事業と欧米のタルトがその落ち込みをカバーしてくれたことを踏まえると、ハイプレステージからコスメタリーまで幅広く、魅力にあふれるブランドで埋め尽くされたポートフォリオを目指してきた成果が着実に出始めていると感じます。

 物価高や少子高齢化など事業を取り巻く環境は一段と厳しさを増していますが、コロナ禍で男女ともに美容に目覚めた人が増えていますので、国内も海外も売上・利益はまだまだ増やせると考えています。

 2024年は、新型コロナが完全に収束し、様々な指標がコロナ前の水準を上回ってくることを見据え、「守り」から「攻め」に転じていきます。

 国内については現在、非常に順調ですし、この流れを止めないように攻めの姿勢を貫いていきます。米国については景気後退懸念が広がっていますが、リーマンショック時も市場はさほど落ち込まなかったですし、タルトにはその状況を乗り越えてきた経験がありますので引き続き成長は図れると見込んでいます。

 それ以外のエリアでは、中国以外の国々への進出を積極的に進めていきます。インドネシアやベトナム、タイなど、若年層が多く経済発展も見込めるASEAN諸国への展開を加速していきます。年末は大谷選手の移籍の話題が駆け巡りましたが、北米での取り組みを加速させます。

 欧州についても、パリに拠点を設置し、フランス支店と研究の拠点を設けることで欧州戦略を強化します。アジアを中心に各国でローカルブランドも実力をつけていますので、日本で売れているものを横展開するという従来のやり方は通用しないと覚悟を決めて取り組んでいくことが重要です。
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