連載コラム

新日本有限責任監査法人 公認会計士から見た化粧品・トイレタリー業界

2019.11.27

第51回 AIと会計

執筆者:田中計士 新日本有限責任監査法人 シニアマネージャー

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【週刊粧業2017年4月10日号4面にて掲載】

 今回は、AIと会計について取り上げます。ここ数年のAI(Artificial Intelligence=人工知能)の進歩は目覚ましく、様々な企業がAIを活用したサービスを展開し始めています。

 化粧品・トイレタリー業界特有のものとして、AR(拡張現実)テクノロジーにAIを活用したメークが試せるアプリやチャット形式の美容カウンセリング、ユーザーに相応しいメークや化粧品を提案するサービス、ビッグデータの活用によるマーケティング予測等の事例があります。

 さて、会計分野における活用についてはどのような可能性があるのでしょうか。将来の会計についての考察をしてみましょう。

 ①仕訳入力業務がなくなる?

 クラウド会計ソフトはすでにAIを活用した自動仕訳機能を搭載していると謳っています。ただし現在は銀行口座、クレジットカードの情報を読み取る仕組みとなっており、現金主義の個人事業主・小規模企業向けといえます。

 しかし、AIによる自動仕訳という概念はあらゆる企業において模索されるべきでしょう。経費精算などは自動化に適した領域といえ、数多くのシステムが展開されています。

 また画像認識技術、自動翻訳技術も向上を続けており、領収書や請求書の画像データ読み取りによる自動仕訳が多くの企業において行われることも容易に想像できます。

 ただし、自動仕訳といっても定義付け、概念化といった作業は人間が人工知能に学ばせることになり、人間の手を一切介さない自動仕訳は当面の間、実現しないものと思われます。

 また、企業の経営環境の変化に応じて仕訳を計上するといったことは困難でしょう。

 ②決算書等の作成業務がなくなる?

 手書きで会計帳簿を記入していた時代とは異なり、既に会計ソフトが決算書を作成してくれます。この意味では、決算書の作成業務は既に消滅した業務と言えるでしょう。一方、有価証券報告書や計算書類の記載を自動化するという試みは無いように思います。毎年のように変化する会計基準や細則に対処することや企業の状況に応じた記載をAIが取って代わることはまだ難しいのかもしれません。

 ③債権債務の管理業務がなくなる?

 すでに書面の請求書は減少し、データの授受にて業務が行われていることが多いのではないでしょうか。

 化粧品・トイレタリー業界においては、一品一品は小額で数は多く、返品慣行もあるといった特徴から、アナログな業務が多いと考えられます。このような業務はAIを活用する期待の高い領域といえます。

 例えば業界によるデータの標準化もこれを後押しします。

 ④経営会議資料の作成業務がなくなる?

 様々なモノがインターネットと繋がり、実世界のデータが増え続けているIoT(Internet of Things)の時代において膨大な情報を把握するには人間よりもAIの方が優れているでしょう。AIを経営判断に生かすことを想定し、技術開発を進めている企業もあります。

 そうした状況においては、経営会議資料や、各種報告書の作成業務は不要となるでしょう。

 ⑤監査も変わる?

 日本公認会計士協会は「ITを利用した監査の展望~未来の監査へのアプローチ~」を公表し、各監査法人もAIを利用した監査用アプリケーションの研究を進めています。そこでは、従来の試査から精査的手法への変化、リアルタイムな監査、監査の自動化等が挙げられています。

 テクノロジーは急速に進歩しています。誰も想像のつかない未来が訪れることになるかもしれません。本稿がAIとの向き合い方を考えるきっかけになれば幸いです。

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プロフィール

執筆者:田中計士 新日本有限責任監査法人 シニアマネージャー

2000年、監査法人太田昭和センチュリー(現新日本有限責任監査法人)に入所後、化粧品、食品、宝飾品などの消費者製品メーカーを中心とした監査業務に従事。その他、株式公開支援業務、内部統制アドバイザリー、デューデリジェンス、経理財務専門誌への寄稿等、幅広い業務を行う。

http://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/industries/basic/cosmetics-and-toiletries/

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新日本有限責任監査法人 公認会計士から見た化粧品・トイレタリー業界

2019.11.27
第51回 AIと会計
2019.11.27
第50回 平成29年度税制改正について―研究開発税制の改正―
2019.11.27
第49回 花王のIFRS適用
2019.11.27
第48回 子会社に対するガバナンス
2019.11.27
第47回 社外役員の選任状況
2019.11.27
第46回 PERによる企業比較
2019.11.27
第45回 最新の世界の化粧品市場動向
2017.01.27
第44回 女性管理職比率に関する考察
2016.09.07
第43回 業界各社のROEから見る利益獲得構造
2016.04.26
第42回 日本企業のCFOの役割
2015.10.07
第41回 統合報告書について
2015.07.16
第40回 平成26年度税制改正について
2015.04.01
第39回 買収価格の算定方法
2015.02.23
第38回 ブランドの財務諸表上の表示
2014.11.17
第37回 消費税増税―実務上の留意ポイント
2014.09.02
第36回 限界利益
2014.06.10
第35回 移転価格税制
2014.03.25
第34回 固定資産税評価額の適正化
2014.02.14
第33回 IR資料から見た各社中計と財務への影響
2014.01.07
第32回 研究開発費について
2013.11.13
第31回 IR資料から見たBCP(事業継続計画)
2013.09.24
第30回 業種特有の引当金について
2013.08.01
第29回 第二会社方式による企業再生
2013.06.21
第28回 業界各社の連単倍率から見る事業構造
2013.05.27
第27回 IFRSを見据えた決算期の統一
2013.04.18
第26回 業界各社の売上原価・販売費及び一般管理費について
2013.03.22
第25回 国内の広告費の状況
2013.02.26
第24回 世界の化粧品マーケットの状況
2012.12.25
第23回 中小企業で利用される会計基準
2012.11.09
第22回 キャッシュ・フロー指標による分析
2012.10.09
第21回 化粧品業界各社の報告セグメント
2012.09.25
第20回 税制改正の影響
2012.09.03
第19回 業界各社の報告セグメント
2012.08.10
第18回 株式の保有目的開示
2012.07.19
第17回 業界各社の世界観
2012.06.27
第16回 業界各社の安全性分析
2012.06.11
第15回 事業等のリスク
2012.05.18
第14回 業界での資産除去債務とは?
2012.04.23
第13回 特別損益とは?
2012.04.12
第12回 東日本大震災に係る業界各社の会計処理・開示
2012.04.06
第11回 包括利益
2012.03.28
第10回 企業とNPO/NGOの連携~東日本大震災を受けて~
2012.03.20
第9回 百貨店等における売上高の認識
2012.03.14
第8回 COP10が与える今後の影響
2012.03.05
第7回 IFRSが業界に与える影響②
2012.02.28
第6回 IFRSが業界に与える影響①
2012.02.16
第5回 IFRS概論
2012.02.07
第4回 CSR報告書の動向
2012.01.27
第3回 有価証券報告書で見る業界の10年
2012.01.11
第2回 有価証券報告書で見る業界の10年
2011.12.26
第1回 連載開始にあたって

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