第43回 統計のデータを見る

【週刊粧業2018年11月26日号4面にて掲載】

 最近、化粧品販売の統計データを調べることがあった。辞書のような分厚いデータ集と首っ引きで数日間を過ごすことになった。これまで、統計的なデータは市場の動きを後から追いかけてくるので、『先読み』の資料としては、あまり役立つことは少ないと思っていた。しかし、あらためて事細かく資料を見てみると、意外に役立つことが多いことがわかった。

 まずここ5年間の販売データの変化を見てみると、マーケットのトレンド変化がよく分かる。

 日本の化粧品販売額は、5年間で120%あまり伸びている。しかし国内だけでみると毎年の伸び率はごくわずかで、大きく売り上げを伸ばしているのは、海外からのインバウンドとアウトバウンド、越境EC等の海外需要だ。ほとんどの化粧品メーカーの活況は、海外の方々のニーズに支えられてきたといっても良い。

 ただし国内で人気のあるブランドでないと、海外の人々にも人気は出ないようだ。国内とニーズが少し異なるのは、中国マーケットの『パック人気』。中国女性のスキンケアニーズを調べると、第一に人気があるのはパックで、日本人の『化粧水好き』と同じような傾向があるようだ。「中国人は朝パックで顔を洗う」と言う人もいるくらいだ。

 国内マーケットの半分弱程度を占めている『スキンケア』は、二極化の傾向が見られる。1つは通販化粧品から火がついたオールインワンに代表される「時短ニーズ」に応える商品群で、初期の頃とは異なって、「○本の役割をこれ1つで」という売り方にプラスして、美白効果や乾燥小ジワ対策など「さらに○○もできる」と『専門特化』型も出てきている。

 一方では、「与えるスキンケア」ではなく、クレンジングや洗顔などの「落とすケア」の方でも、「W洗顔不要などのオールインワン」が出てきている。こちらは「肌に負担をかけない洗顔」という切り口になっている。しかしいずれにしてもこれらは、面倒くさいものはまとめたい「時短ニーズ」に応えたものといえよう。その対極に位置していると思われるマッサージ関連商品は不振が続いており、「面倒なことはやりたくない」という声が聞こえてきそうだ。

 もう一方の傾向は、アンチエイジング、美白、超保湿などの『スペシャルケア美容液』関連だ。1商品の売上で100億円超えも出るほどのヒット商品が生まれて、ニーズを牽引し続けている。これは、「肌悩みは徹底解決したい」というニーズに応えた『機能性サイエンスコスメ』というべき分野で、早く確実な効果を出したいという「スピードニーズ」と言えよう。あわせて「気になるところをケアしたい」というパーツケアも、これまでよりニーズが高まっているようだ。予防分野では、UV商品が全ての世代にその必要性が理解されつつあるようで、ニーズも定着しつつある。

 「時短ニーズ」も「機能性サイエンスニーズ」も、両方とも忙しい女性たちの生活が垣間見られるような傾向である。

 メイク商品では、「見栄え」が重要になっているようで、「インスタ映え」などの言葉に表れているように、「どう見えるか?」が購入のニーズになっており、目や唇のポイントメイクやベースメイクの人気に繋がっているようだ。これも「どうせメイクをするなら、きれいに見せたい」という気持ちの表れのようだ。つまりお客様の要望は、よりストレートに、より直接的に、よりスピーディーになってきていることがよく分かる。

 このように、たまに販売データを俯瞰で見てみると、あらためて大きなニーズの変化が読めるので、過去の振り返りだけではなく、これからのマーケットのトレンド変化を予測するのにも役立つような気がした。
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鯉渕登志子

(株)フォー・レディー代表取締役

1982年㈱フォー・レディーを設立。大手メーカーの業態開発や通販MD企画のほか販促物制作などを手がける。これまでかかわった企業は50社余。女性ターゲットに徹する強いポリシーで、コンセプトづくりから具体的なクリエイティブ作業を行っている。特に通販ではブランディングをあわせて表現する手腕に定評がある。日本通信販売協会など講演実績多数。

http://www.forlady.co.jp/

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