第57回 本格的に通販の手法を取り入れる店舗販売

【週刊粧業2020年7月20日号2面にて掲載】

 今回のコロナ禍では多くの店舗が休業要請を受けた。店舗の武器とも言える「接客」ができなくなり、どのような対策で「売り上げを維持できるか?」を試された期間でもあったように思う。

 一部の店舗では、アウトコールや動画配信、Webカウンセリングなど、通販の販売手法を取り入れて購入につなげ、配送で対応したらしい。

 休業要請も徐々に解除されているが、現在でもタッチアップやテスター使用はほとんどの店舗で自粛している。店舗を開けていても、積極的な接客は行えないため、今後も通販の手法は必要になってくるだろう。

 今回は応急的な対応で切り抜けたものの、本格的に通販の手法を導入するためには多くの課題が山積している。

 まず在庫スペースを確保できるのか? 発送作業にかかわる人材確保はどうするのか? 通販のシステムづくりにも時間がかかるだろう。

 さらに、商品の配送は、店舗にとって「商品お渡し」や「お見送り」と同様だ。そのため、手元に届けるまで責任を持たなければならない。配送業者の選定などを含めた「届ける仕組み」も品質を担保していく必要がある。

 ハード面だけではない。通販利用者の検索行動にどう対応するのか? また愛用者コメントなどはどの程度広げられるのか? 購入後のQ&Aなどもどのように対応するのか? メーカーサイトに任せておくだけでよいのか? またどのように継続的な関係性を作るのかなど、様々な課題が出てくると思う。

 実は弊社がお手伝いしている通販化粧品会社では、初回購入が店舗の場合と通販の場合で気になる結果が出ている。

 同一商品を店舗でも展開もしている商品を購入したお客様が、その後通販化粧品会社のオンラインショッピングサイトの定期購入に切り替えてくれた場合、いきなり通販メディアで購入し始めたお客様と比較すると、LTVが高くなる傾向にあることが分かった。

 これは対面接客の情報量が通販のメディアから得られる情報量と比較し、いかに豊富かを表しているのではないだろうか? 特に初めての出会いで、販売員から直接得られる情報は、視覚、聴覚、感触など、その場に身を置くだけでも、体感できることが多い。

 そのような店頭の対面販売のメリットをどのように非対面で届けるのか? コロナ禍は化粧品の販売方法にも大きな課題を突き付けている。

 一方、今後は化粧品通販会社も店舗のような「接客」や「おもてなし」を取り入れてくるだろう。通販化粧品各社もコロナ禍を経験して、「やはりどんな状況でも安定して購入してくれるのは、ロイヤル顧客層である」ということが改めて証明されてしまったからだ。

 業態の差はなくなりつつあるいま、「何が明暗を分けるか?」。それはブランドポリシーではないか? 化粧品のブランド力とは単に商品力やクリエイティブ力だけではない。接客力・提案力・サービス力など、全てに一貫したポリシーを貫いているかが重要だ。

 いまや化粧品は「悩みを解決」するための道具ではなくなった。ある化粧品メーカーでは、お客様に対応する時間を短縮せずに、時間をかけて話し相手になったことで信頼が深まりLTVの向上につながったという。

 お客様の肌だけでなく、「心も豊かにしてくれる化粧品」。これこそが、アフターコロナにも、不況にもゆるがない、強いブランド力なのではないだろうか。
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鯉渕登志子

(株)フォー・レディー代表取締役

1982年㈱フォー・レディーを設立。大手メーカーの業態開発や通販MD企画のほか販促物制作などを手がける。これまでかかわった企業は50社余。女性ターゲットに徹する強いポリシーで、コンセプトづくりから具体的なクリエイティブ作業を行っている。特に通販ではブランディングをあわせて表現する手腕に定評がある。日本通信販売協会など講演実績多数。

http://www.forlady.co.jp/

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