第53回 BCGではなくBTS

【C&T2023年1月号6面にて掲載】

はじめに

 最初にBTSをご存じだろうか? BCGではない。BCGは結核を予防するワクチンの通称であり、このワクチンを開発したフランスのパスツール研究所の研究者の名前を冠した菌・Bacille Calmette-Guerin(カルメットとゲランの菌)の頭文字だ。

 BTSとはLINEの2022年10月の調査で、30代女性「男性アイドルグループ人気ランキング2022年」で第1位になったアイドルだ。今回はその話題からスタートしよう。

BTS

 最初にBTSをご存じだろうか? BCGではない。BCGは結核を予防するワクチンの通称であり、このワクチンを開発したフランスのパスツール研究所の研究者の名前を冠した菌・Bacille Calmette-Guerin(カルメットとゲランの菌)の頭文字だ。

 BTSとはLINEの2022年10月の調査で、30代女性「男性アイドルグループ人気ランキング2022年」で第1位になったアイドルだ。今回はその話題からスタートしよう。



 私の世代の韓流ブームは2003年のNHKドラマの『冬のソナタ』に始まった(図1)。それ以来、新聞のラテ欄(ラジオ・テレビの番組表欄)を開くと、テレビ局で軒並み韓流ドラマの名前が挙がっていた。

 大量の韓国ドラマが日本で放映され、それに伴って主題歌と韓国人俳優たちの詳細な情報などが、幅広いエンターテインメントシーンで広がっていった。韓流ブームが巻き起こると、日本に輸出された韓流ドラマのオリジナルサウンドトラックを歌っている歌手の人気も高まっていった。この流れの中で大人気となったのが東方神起などだ。

 2005年頃から日本をビジネスチャンスとする韓国人アイドルグループが急速に増えていった。アメリカやヨーロッパなどにもK–POPは輸出され、中でもシンセサイザーと演奏データを再生することで自動演奏を行うことを目的としたソフトウェアのシーケンサーを使って、踊らせることを目的に造られたEDM (Electronic Dance Musicの略)と呼ばれる先進的な音楽性を取り入れた。簡単に言うとエレクトロニックなダンス・ミュージックのことである。

 冒頭のBTSとは、「防弾少年団(バンタンソニョンダン)」の英語表記「Bang Tan Sonyeondan」の頭文字からつけられた名前で、英語圏の国へ進出するためにつけられた。 「BTS」と「防弾少年団」はどちらもグループの正式名称であり、2013年にデビューした韓国のボーイズグループで、彼らの歌唱力やダンススキルは驚くほど高い。

 AKBなど比ではない。その活躍は、アメリカを中心とした世界へと広がる。

 2021年の第63回グラミー賞では初の単独ステージを披露し、さらに韓国歌手として初めて「最優秀ポップ・パフォーマンス(グループ)」にノミネートされた。億を超えるユーチューブの再生回数を37本もち、「Butter」は24時間以内に1億800万回を超えた。「英語がまるでダメ」なジャニーズとは違い、ニューヨーク国連総会でのSDGsスピーチや、ホワイトハウスでバイデン大統領と面会もした(図1)

 アメリカのBillboard(ビルボード)1位が5曲もランクインし、アジアでは坂本九の『上を向いて歩こう』以来だった。しかし、なぜか2022年もNHK紅白歌合戦出演には落選している。



韓国コスメ

 日本に輸入される化粧品の国別データがここにある(図2)。武庫川女子大学の神栄准教授によると近年、韓国からの輸入がぐんぐん伸びていて、とうとう2020年にはタイやアメリカを抜いてフランスに次ぐ第2位の化粧品輸入国になった。



 このグラフの傾きの勢いから、「韓国コスメ」が日本に輸入国1位となる日が来ると私は思う。「rom&nd」というブランドの「ジューシーラスティングティント」は2019年に日本に上陸し、化粧品口コミサイトの@cosmeでは、ベストコスメアワード2020年上半期新作ベストリキッドルージュ第2位に輝いた(図3)

 たった3年で海外展開し、しかも日本で爆発的に売れているという裏には国を挙げての対策がある。韓国政府は、自動車ではなく韓国の文化コンテンツを積極的に海外市場に展開する方針を、1998年に金大中大統領が打ち出した。そこが日本と違う。戦後間もなくは日本の大衆文化の輸入が禁止されていたが、それを開放したのは彼である。

 そして2000年代初めより付加価値の高い化粧品の輸出に取り組んできた。放映権料を安く設定した韓流ドラマを販売することによって韓国化粧品メーカーのスターマーケティングを可能にし、輸出奨励策としての金銭面の支援も行った。

 これら支援の結果、韓国の化粧品輸出額はこの3年間で平均30%の伸びを続け、2012年は10億7000万USドルに達した。さらに、2020年に化粧品輸出額を60億USドルにすべく、原材料研究や効果の評価などの支援のほか、2016年までに輸出専門人材400名、GMP管理者2000名を育成する計画を発表していた。

 「物を売る」ことを「営業」だとすると、「マーケティング」とは「物が売れる仕組みを作る」ことであり、国を挙げてやっている。韓国ドラマは女優さんがメイクをするシーンで商品がバッチリ映る。

 これは、「PPL」(プロダクトプレイスメント)というマーケティング手法で「間接広告」という。韓国のドラマは、途中でCMを流すことができないためこのような手法が取られるらしいが、韓国以外の国ではそのまま宣伝される。



 韓国のアイドルやドラマなどのファンになり、その影響で韓国製品に対するイメージも良くなり、最終的には韓国そのもののファンになる構図を、サムスン経済研究所は下図の4段階で説明している(図4)

 第1段階は、音楽やドラマに触れてスターを好きになる。第2段階は、DVDなどを購入する。第3段階は、家電や生活用品など韓国製品を選び始める。第4段階は、韓国そのもののファンになるという。

 そのため、韓国政府は化粧品の研究開発費用の一部を補助するなど、韓国コスメの強みを創出するための財政サポートを2007年の化粧品法改正時(2008年2月施行)から行っている。このような財政サポートを行っている国は、韓国以外にはない。

 また、輸出に必要な手続きや支援ができる専門家を育てたり、輸出手続き自体を簡素化したりしているので、中小企業であっても大企業と変わらず、海外ビジネスに進出しやすい環境を整備している。

おわりに

 BTSも国内の市場が狭いことはおのずから限界があり、努力に努力を重ねて大ヒットを飛ばしても、ビジネスとして韓国国内では、海外市場と比べものにならない。国際レコード・ビデオ制作者連盟の2021年の資料では、音楽市場が最大の国はアメリカで122億ドル、次いで日本、イギリス、ドイツ、フランスと続き、韓国は7位である。

 韓国の音楽市場規模は日本の4分の1しかない。

 韓国政府は2008年9月のリーマンショック以降も国家的経済危機から脱出するため毎月グローバルに活躍できる可能性がある新鋭アーティストを選び、地上波テレビやその他の活動を集中支援するという事業を開始した。2010年には、音楽、ドラマ、映画、アニメーション、ゲームなどの韓流コンテンツ事業の支援に約200億円を投入した。

 この数字は、当時の文化関連予算の17.25%に相当する。その結果、韓国コンテンツ振興院によれば、2021年のコンテンツ輸出額は1兆円を超えると試算されている。かつてのソニーやホンダのように、K–POPは韓国政府にとって経済成長戦略の重要な要素となっている。
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島田邦男

琉球ボーテ(株) 代表取締役

1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数

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