第58回 いろいろではなく色々

はじめに

 普通の少女が変身して悪と戦うアニメのプリキュアが人気だが、昨年累計1000万PVを記録した「VOCE」のウェブサイト漫画「僕はメイクしてみることにした」もヒットし、単行本はAmazonランキング・コミック総合で1位を獲得した。

 弊社の化粧水「サンラバー」も大学生協で男子学生が購入しているようだが、この漫画の主人公は38歳独身男性のサラリーマンで、ふとしたきっかけでメイクの世界にどんどん足を踏み入れていく。ベースメイク、眉メイク、さらにはリップへと……。

 主人公が男性向けのメイクテクニックにより外側だけでなく自分の内側も変わっていくのを感じ、毎日がちょっとだけ楽しくなっていく。この気持ち、メイクの世界に足を踏み入れたことがある人なら、誰もが「分かる、分かる!」らしい。

 今は昭和のTVCMの“24時間戦えますか?”という時代ではない。きっと読者は、メンズ美容から主人公が内面に抱いている“自分らしさ”を追求することの大切さに共感したのだろう。

 夢に性別は関係ない。海外ではメイクアップ化粧品をColor Cosmeticsと言うことが多い。そこで今は、我々の業界の基本、カラー文化の「色」について考えてみたい。



脳が色を塗っている

 ヒトが受け取る情報の約87%は視覚情報で、嗅覚や触覚ではない。その視覚によって起きてから寝るまでずっと色を目にしている。ヒトが見ている大部分は色でつくられている。

 ヒトはなぜ色を見ることができるか。結論は、色が外にあるのではなく眼と脳が作り上げた主観的かつ個人的な感覚なのである。日本で色覚異常と呼ばれるヒトたちは男性で約5%、女性では約0.2%の割合でいると言われている。これは男女半々の40人のクラスには1人、気づいていないだけで色覚異常のヒトは周りにも結構いるのだ。

 ヒトの見ている色は、光とヒトの視覚によってできている。光は電磁波の一種で、波の性質を持っている。波の繰り返しの幅(波長)によって、見える色も異なる。波長の長さが400~700nmの帯域は「可視光」呼ばれ、極めて狭い範囲のみ色として見ることができる(図1)



 眼には、光を受け取る細胞(光受容細胞)があり、その情報を脳に伝達することで視覚が出来る。色の情報を伝達するのは錐体細胞である。長波長(赤)の光、中波長(緑)の光、短波長(青)の光にそれぞれ反応する3種類の錐体がある。これらが光を吸収してその刺激が信号となって視神経を通って脳に伝わる(図2)

 つまり、ヒトは脳で処理して色をつけている。色自体は、個人が勝手に感じるものであって、外界に存在するわけではない。繰り返すが、光線にくっついているものでもなく、物質についているものでもない。例えば、虹は太陽の光が屈折率の違いから波長がバラけたものだ。ヒトにはそれらがそれぞれ違って見える。

 波長を識別する感覚がある。その波長の違いによって光線を識別できる感覚が色覚だ。別に「色が光線にくっついている」わけではない。「物質にくっついている」わけでもない。光の波長を識別する能力に応じて識別しているということは、つまり「脳が色を塗っている」わけである。

ファンデーションの色選び

 化粧をした結果、かえって老けて見えたり、野暮ったく感じたことはないだろうか。それは、メイクテクニックや色の選び方がミスマッチなために生じている。どんな場合にミスマッチとなるのか? ファンデーションの色について、栄中日文化センター講師の竹内ゆい子氏は次のように述べる。

 ファンデーションは顔の色に合わせることも大切だが、首の色と差がある場合に違和感が生じる。日本人の肌の色だけで考えると、色白の人と日焼けしている人の肌色の差はファンデーションでいうと5~6段階(色)くらいの差だ。色味的にはベージュやアイボリー、クリーム、オークル、ピンクベージュ、ピンクオークルなどと表現されていることが多い。



 黄色味の強弱によって分けられている。欧米のブランドでは色数が20~30色ほどあるので選ぶのが難しいが、自分に合ったファンデーションを見つけることができる。日本製なら5~8色位の中から自分の肌色に近いと思うものを2~3色選び、顔に実際につけてみるのが一番いい(図3)。迷った時は、一段階暗めを選ぶと上手くという。

 日本では、昔からの慣習で“色白は七難隠す”と言われて、明るい色を選びがちだが、白いから綺麗なのではなく、色が合ってキメが整っていれば暗い肌の色でも色白肌に劣らず綺麗だ。また、色は明る過ぎると膨張して見え、暗いと引き締まって見える効果があるので、フェイスラインにはやや暗めのファンデーションを用いる2色使いがお薦めだ。必ず首の色との差をチェックすることが必要だ。

 アイシャドウやリップ、チークなどのポイントメイクは、肌色との直接的な配色関係となるため、顔の印象に大きな影響を与える。似合うメイクは、顔色が明るく輝き、透明感が出て、マイナス面をカバーして良いところを強調して伝える。化粧品選びのコツは自分に似合う色をしっかり把握しておくことのようだ。



おわりに

 令和元年10月31日未明に、首里城の正殿内部から発生した火災により、正殿をはじめする9施設が焼失した。火災は約11時間にわたり燃え続けた後に鎮火した。現在、再建中の首里城のように沖縄の瓦はなぜ赤いのか(図4)? それは「クチャ」に秘密がある。

 クチャとは沖縄でしか取れない泥岩で、琉球王朝時代から沖縄の女性たちはクチャを乾燥させて髪洗い粉として使用し、そのまま顔に塗り泥パックにしていた。元は灰色だが、乾燥させて焼くと鮮やかな赤に変わる。含まれる「鉄分」が熱で酸化され、赤に変化するからだ。赤瓦は美しいだけではない。夏の暑い日には熱を逃がして室内を涼しくし、耐久性も高く台風に強い。素材本来の特性で沖縄の暮らしを支えてきた。

 化粧品の色の文化も人の暮らしを支えきた。過去に政治家が答弁した「人生いろいろ」とは違う。
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島田邦男

琉球ボーテ(株) 代表取締役

1955年東京生まれ 工学博士 大分大学大学院工学研究科卒業、化粧品会社勤務を経て日油㈱を2014年退職。 日本化粧品技術者会東京支部常議員、日本油化学会関東支部副支部長、日中化粧品国際交流協会専門家委員、東京農業大学客員教授。 日油筑波研究所でグループリーダーとしてリン脂質ポリマーの評価研究を実施。 日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。 主な著書に 「Nanotechnology for Producing Novel Cosmetics in Japan」((株)シーエムシー出版) 「Formulas,Ingredients and Production of Cosmetics」(Springer-Veriag GmbH) 他多数

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