大学院時代は有機合成化学を専攻し、当初は研究職として入社した原谷氏。入社時には20年後に広報部長になっているとは夢にも思わなかっただろう。まさに波乱万丈の人生だが、歩んできた経歴を知れば知るほど広報部長という役職が原谷氏の天職だということがわかる。
「専門分野で身近な幸せに貢献できる企業としてコーセーを選んだ。世の中に無いものを創り出す楽しさに加え、生活に密着した化粧品なら成果もじかに実感できると思ったからだ。一貫して『価値の創出』と『ヒトに伝えること』に興味を持ち、それを突き詰めていった。そういう意味では、研究も広報も同じで、とりわけ分野を問わず様々な人と出会える広報の仕事に魅力を感じる」
入社後約1年半は主に製品開発を経験後、百貨店で展開するアウトオブブランドの先駆けとなる「カルテラボラトリーズ」の立ち上げに関わった。
「カルテでは、お客様一人ひとりの肌コンディションを数値化し商品紹介に導くための肌診断システムの開発に携わった。肌分析手法として科学的アプローチがもてはやされた当時、差別化を図るには、店頭でお客様にどう伝わっているかをじかに把握することが欠かせなかった。いろいろな意味で生きた現場を知ることができ、視野も広げることができたこの時が、今になればターニングポイントだったと思う。実際、この時代に経験したことや築いた人脈が今の私の財産になっている」
カルテでの経験は、その後の研究統括室で花開く。肌診断システムを構築した際のコンピュータスキルが、研究部門内の情報化推進に寄与するとともに、パソコンを使った様々なアイデアを発信・提案し続ける原谷氏のバイタリティーが、当時、グループウェア導入などによって情報武装を強化していた会社全体の方向性とも上手く合致。1998年3月には広報課(1度目)に配属された。
「『理系の人材も広報の一角を担い、情報化武装をすべき』といった提案が当時の広報部長に受け入れられた。当時はまだインターネットが普及し始めたばかりで、着任早々にまずメンバー全員にパソコンを行き渡らせた。今考えると、社内の情報共有化の一つのきっかけだったと思う」
2000年3月には、情報統括部システム企画グループに配属され、情報投資計画を立案する仕事を任された。全社をあげたプロジェクトであるSCM(サプライチェーンマネジメント)導入や新経理システムへの移行などが一段落した2007年3月、広報部長に就任した。
「もともとシステム(仕組み)よりコンテンツ(中身)に興味を持っていた。広報にはメディアなど社外対応のほか、社内のコミュニケーションを円滑にする役割も求められる。会社と社会の間に立ち、常に冷静に会社を見ることが要求されるが、コミュニケーションを通じて会社を変えていくことができるやりがいのある部署だと思う」
昨今の消費者は、企業による広告宣伝よりも、ブログやクチコミ、客観性の高いマスコミを通じた情報によって判断する傾向が強まっている。原谷氏はこうした背景を踏まえ、今後の広報のあり方について、「マス宣伝で人を動かす時代は終わりを告げ、広報部門がより宣伝的に、宣伝部門がより広報的になることが求められてくる。つまり、客観性に基づく信頼性とマーケティングの戦略性との連携やバランスが重要になってくる」と語る。
原谷美典(はらたに・よしのり)氏 プロフィール
上智大学大学院を修了後、1989年4月に入社。研究所にて製品開発を経験後、基礎研究室に配属。化粧品の機能評価研究に従事するなかで、アウトオブブランドの先駆けとなる「カルテラボラトリーズ」の立ち上げに関わる。その後は、社内情報共有や業務支援システム構築を行う「研究統括室」「情報統括部」などの部署を経験。2007年3月、全社コミュニケーション体制の強化を目指し広報部長に就任。現在に至る。
この記事はC&T 掲載
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