花王スキンケア研究所、花王加工・プロセス開発研究所は、太陽光に含まれる近赤外線を高効率でカットする薄膜状酸化チタンを見出し、太陽光下での不快な肌表面温度の上昇・熱さ感覚を抑制できる近赤外線防御技術を開発した。
今回の研究成果は、「第85回SCCJ研究討論会(2019年11月27日・東京都)」にて発表するとともに、得られた知見は今後のサンケア技術開発につなげていく。
同社の調査(20~50歳の男女1500名、2019年)では、強い日差しの下で、日やけ止めを塗っても解決できない不快感として、49%の人が「肌がじりじりする、ひりひりする」ことを経験していることがわかった。
その原因として、太陽光に含まれる近赤外線に着目。直射日光が肌にあたると、5分程度で肌表面温度が5~6℃上昇することや、外気温が28℃を超えるような暑熱環境下ではその表面温度は40℃以上にもなることを確認した。
肌の表面温度が約42℃になると、温度に対する感覚受容体が活性化し、痛覚を刺激することが知られているが、暑熱環境下で太陽光にあたった際に肌に灼熱感を感じるのは、このような肌の表面温度の上昇によるものであると考え、同社では太陽光に含まれる近赤外線から肌をしっかり守ることを目指し、近赤外線防御技術の開発に取り組んだ。
近赤外線を散乱してカットする素材はこれまでにも使われてきたが、肌表面温度の上昇を抑制する効果としては充分ではなかったことから、同社は光線の干渉の原理に着目し、近赤外線の波長を選択的にカットする素材を探索した。
その結果、化粧品原料である薄膜状酸化チタンの膜厚をコントロールすることで、高い近赤外線防御性能を発現することを見出した。
この近赤外線防御素材と紫外線防御剤を配合した日やけ止め製剤(紫外線&近赤外線防御)と従来の日やけ止め製剤(紫外線防御)をそれぞれ前腕に塗布、人工太陽光を照射し、肌表面の温度変化を確認した。その結果、人工太陽光の照射によって、未塗布の前腕で肌温度は5分間で6.5℃上昇したほか、従来の日やけ止め製剤も未塗布と同様の肌温度の上昇が認められた。
一方、新しい素材を配合した日やけ止め製剤(紫外線&近赤外線防御)では、肌温度上昇は平均5.5℃にとどまり、平均でマイナス1℃、最大でマイナス1.6℃の肌温度の上昇抑制が認められた。
また、照射5分後の熱さ、じりじり感それぞれの感覚について、被験者の主観評価を行ったところ、未塗布、従来の日やけ止め製剤に比較して紫外線&近赤外線を防御する新しい日やけ止め製剤では、熱さ、じりじり感の感覚スコアが有意に低下することを確認した。
つまり、近赤外線を高効率でカットし、太陽光による肌表面温度上昇を抑制できる近赤外線防御技術を採用することで、紫外線のみを防御する製剤では防ぎきれなかった太陽光による肌表面温度上昇・熱さ感覚を低減できることがわかった。