花王、ベースメーク塗膜の内部構造を解析する新手法を開発

粧業日報 2020年2月27日号 3ページ

カンタンに言うと

  • 塗膜内部の組成分布と皮脂の挙動をラマン分光法により可視化
花王、ベースメーク塗膜の内部構造を解析する新手法を開発
 花王解析科学研究所・メイクアップ研究所は、ラマン分光法を用いて、ファンデーションなどのベースメーク塗膜内部の組成分布(組成と各成分の分布)を、塗膜を破壊することなく可視化する評価手法を開発した。これにより、ベースメーク塗膜内部の組成分布に加えて、皮脂の挙動も把握できるようになる。

 今回の研究成果は、「第85回SCCJ研究討論会(2019年11月27日、東京)」にて発表した。今後この知見を、さらに高い機能を持つベースメークの技術開発に生かしていく。

 ファンデーションや化粧下地などのベースメークは、きれいな仕上がりを実現するという基本性能に加え、化粧くずれしにくい、使い心地がよい、化粧のりがよい、紫外線から防御するなど、さまざまな機能が求められる。このような機能をより高次元で実現するためには、皮膚上に形成されるベースメーク塗膜の構造や組成分布、塗膜の形成・崩壊のプロセスを把握することが必要となる。

 ベースメーク塗膜の構造を解析する方法としては、これまで走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いた観察が行われてきたが、製品に含まれる油剤や皮脂などの有機物を識別できない、塗膜の経時変化を観察できないなどの制約があった。

 そこで今回、この課題を解決し、ベースメーク塗膜の内部構造や組成分布を詳細に解析する手法の開発に取り組んだ。

 まず、一般的な液状ファンデーションでベースメーク塗膜を作成し、ラマン分光法で観察した。しかし、レーザーによる発熱で塗膜が壊れる、一部成分のラマン信号が過大で組成を正確に読み取れないといった現象が発生し、そのままでは内部構造を解析することができなかった。

 そこで、解析を妨害するベースメーク特有の成分が酸化鉄・酸化チタンであることを突き止め、これらをタルクに置き換えた処方(モデル処方)とすることで、ベースメーク塗膜の組成(有機物、無機物)と各成分の分布を断層像として可視化することに成功した。

 この結果から、ベースメーク塗膜内部では、粉体、親油成分、親水成分がμm程度の集合体を形成していること、さらにベースメーク塗膜内部は、成分の複雑な相互作用によって構築されていることが確認された。

 次に、新手法の適用例として、化粧くずれの主な要因となる皮脂のベースメーク塗膜での挙動を確認するため、モデル処方のベースメーク塗膜にモデル皮脂を添加し、塗膜中での皮脂分布の可視化を行った。

 しかし、そのままではベースメークに含まれる油剤(シリコーン、紫外線吸収剤など)とモデル皮脂との識別ができないため、モデル皮脂の一部の原子を重水素に置き換えて高感度に検出する方法を考案した。

 この方法を用いて、耐皮脂性を特長とするベースメーク塗膜の観察を試みたところ、皮脂は全体に広がっているのではなく、ベースメークの成分の間に局在化していることが確認できた。

 この結果から、耐皮脂性を持つベースメーク塗膜では、皮脂を局在化させることで皮脂由来の化粧くずれ防止に寄与している可能性が示唆された。

 今回、ラマン分光法を応用することにより、従来難しかったベースメーク塗膜の組成分布や皮脂の挙動を明瞭に観察できることがわかった。

 今後は、この技術をより高機能なベースメーク製品の開発に生かしていく。
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