資生堂は、ヒアルロン酸(HA)の体積をコントロールする「Shape-Shifting HA技術」を開発した。
肌表面で保水膜を形成し、高い保湿効果を発揮するHAは、分子が非常に大きいため、肌に塗布しても角層に浸透しにくいという課題があったが、新技術では高分子であるHAの体積をコントロールすることにより、HAの角層浸透性、角層内での機能を高め、やわらかく、みずみずしい肌が実現できるという。
HAは保水力に優れた生体高分子であり、肌の保湿に加えて様々な生理活性を示すことが知られている。表皮に含まれるHA量は加齢に伴い減少するため、健康な肌を維持するためにはHAを肌の内部へ供給することが重要だ。しかしながら、HAの分子は非常に大きく、角層が強靭なバリアとして働くために、HAを肌に浸透させることは極めて困難だった。また、皮下組織まで直接注入できる美容医療のHA注射は、侵襲的であり、全顔に適用できないという課題があった。
そこで、高分子のHAを非侵襲的に肌の内部に浸透させるとともに、肌内部に浸透したHAが本来の機能を発揮できる新規技術の開発を進めた。
研究では、HA水溶液に各種の塩を添加し、HAの角層への浸透量を測定した結果、塩化マグネシウム(MgCl2)の添加によりHAの角層浸透量が高まることが明らかとなった。それを裏づけるべく、緑の蛍光で標識したHAを肌の表面に塗布し、断面を蛍光顕微鏡で観察したところ、MgCl2を添加した場合には、MgCl2添加のないHA水溶液と比較し、より多くのHAが角層深部まで浸透する様子を可視化することができた。
また、HA水溶液にMgCl2を添加し、HAの体積を測定したところ、MgCl2の添加により、体積の減少が認められた。これらの結果から、MgCl2がHAの体積を収縮させることにより、HAの角層浸透性を高めたと考えられる。
さらに、キレート剤の一種であるメタリン酸ナトリウム(SMP)の添加によって収縮したHA(コンパクトHA)にSMPを添加すると、コンパクトHAが再膨潤して体積が増加し、収縮前のHAと同等の体積に戻ることがわかった。
続いて、コンパクトHAとSMPの組み合わせによる効果を検証すべく、肌の表面にコンパクトHAだけを塗布した場合と、コンパクトHA塗布の後にSMP水溶液を塗布した場合の角層水分量の比較を行った。その結果、コンパクトHAにSMPを加えた場合では角層水分量が顕著に高まることが明らかとなった。
この結果から、SMPによりHAが再膨潤した結果、保水力が復活し、角層水分量を増加させたと考えられる。
高分子であるHAを収縮し、角層に浸透しやすくしたコンパクトHAを、SMP等のキレート剤により再膨潤させ肌の保水力を高める一連の技術について、同社では「Shape-Shifting HA」と名付けた。