第20回 オールインワンコスメ

【週刊粧業2017年05月15日号5面にて掲載】

 今回は、いまやスキンケアの1アイテムとして定着した『オールインワンコスメ』について取り上げます。

 オールインワンコスメとは一般に、ひとつで化粧水や美容液、クリームなどの3つ以上の機能を備え、洗顔の後に使用するだけで基本的な手入れが完了することを謳ったアイテムを指します。

 概して、複数の手順をワンステップで完了できるという簡便性や時短性、複数の商品を購入する必要がないという経済性を謳ったものが多く、30~40代の家事や育児に忙しい層を中心に支持されています。

 同市場は、2011年の時点では400億円ほどでしたが、この5年で約2倍の800億円規模にまで拡大しています。以前と少し異なるのはキープレーヤーの顔ぶれです。

 当初はドクターシーラボや新日本製薬といった通販系企業が市場を牽引していましたが、近年はロート製薬やちふれ化粧品などのセルフ系企業がシェアを拡大しています。このように参入企業が増えたことが顧客の裾野を拡大し、市場の盛り上がりにつながっています。

 ところで、オールイワンコスメは「一品のみでOK」を謳うアイテムが主流ですが、実際にそうした使い方をしているのは20~60代女性の3割程度です。

 残りの約7割は「きちんとケアできているか不安」などの理由で他のアイテムを併用しており、特に化粧水の使用率は半数を超えています。そうした傾向は、加齢に伴う肌悩みがより深刻に表れる50~60代でいっそう顕著となり、クリームや美容液の併用率も高くなっています。

 オールインワンコスメが普及し始めた当初は、化粧水などの他のアイテムが売れなくなるのではないかという懸念から参入に躊躇したり、オールインワンコスメの魅力を打ち消してしまうという危惧から他のアイテムの積極的な訴求を控えるブランドも少なくありませんでした。

 しかし今日のように、参入ブランドが増え、他のアイテムとの併用者が多数である状況を踏まえると、オールインワンコスメの「一品のみでOK」という打ち出し方にも工夫や変化が求められます。

 例えば、市場の先駆的存在のドクターシーラボは、オールインワンコスメの浸透を高める導入美容液を発売することで、オールインワンコスメの売上を落とすことなく同アイテムをヒットさせました。

 また比較的最近の例では、ピエールファーブルは多機能タイプが主流のなかであえてシンプルな機能を打ち出し、ヒット商品へと導いています。一方で、コーセーが「雪肌精」から発売した多機能ジェルは、化粧水との併用を前提にしていますが、相性の良さから好調な売れ行きです。

 このように、オールインワンコスメの魅力やメリットを緩やかに共有しながらも、ユーザーの実態に合わせてポジショニングを図っていくことが重要ではないでしょうか。
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松本 竜馬

TPCマーケティングリサーチ(株)マーケティングマネージャー

大阪大学大学院人間科学研究科博士課程修了。社会学(ジェンダー/セクシュアリティ論)を専攻した後、マーケティング調査や化粧品・美容業界に興味を持ち、2007年に総合企画センター大阪に入社。以来、一貫して化粧品・美容領域に特化した市場調査や消費者調査を多数手掛けているほか、化粧品企業や広告代理店などからのマーケティング相談への支援も行っている。

http://www.tpc-osaka.com/

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