細やかな気配りと安心感が相乗して、
一度離れたお客を呼び戻す
過去に幾度となく小紙に登場して頂いている有力化粧品店「ビューティふたば」(所在地=東京都板橋区)は、山本好文社長に聞くところによると昨年1年間は「厳しい状況が続いた」という。多くの小売店が同様の状況下に置かれ、ついつい売上げに意識をとられがちになるところだが、同店ではスタッフの働きやすさを最優先に考えた職場づくりは変わらずに続けた。メーカーの垣根を超え、スタッフ同士のコミュニケーションを重視する山本社長に、専門店の使命や本来あるべき姿とは何か話を聞いた。
スタッフの働きやすさを最優先に
新しい出会いをつくる取り組み強化
「スタッフにはあまり売上げのことは言いたくないんだよ」。こう語る山本社長の持ち前の明るい性格や大らかな人柄がスタッフをはじめ多くの顧客に支持されている。
日本でも指折りの商店街に数えられる「ハッピーロード大山」に立地しており、平日で50人超の来店客数がある。主軸ブランドを「資生堂」「コーセー」とし、戦略ブランド「アルビオン」「リサージ」で高い売上成長を達成してきたが、昨年は客数の減少や中価格帯商品の売れ行きの鈍化に悩まされ続けたという。
長引く経済不況でお客は価格の安さを求める傾向が強まり、商品の販売価格で勝負している訳ではない同店は苦戦を強いられることとなった。しかし、それでもなおスタッフの働きやすさを最優先に考えた職場づくりを継続した。
「スタッフ自身が楽しく仕事をしていないと、お客様に喜んでいただける訳がない。スタッフと私の関係が良ければ、スタッフとお客様も自然と良い関係が築けると信じている」(山本社長)
山本社長は、決して売上げを軽視している訳ではないが、「スタッフが明るく元気に接客した結果としての売上拡大でなければ喜びはない」と言い切る。昨年からは、積極的に明るいスタッフを起点に「出会いの窓口」を広げ、新規顧客を獲得しようとしている。そうすることで客数増による理想的な売上拡大が図れるからだ。
昨年9月から2号店で始めた、保湿特化の「ぷるるんエステ」は1500円で施術を受けられることや店頭にボードを置いて情報発信を強化したことで、1日に4、5人は訪れる人気ぶりだ。また、眉スタイリングも若い女性に支持され、新しく会員になるお客も増えてきたという。
新規会員になったお客には「サンクスカード」をさりげなく渡し、固定客になってもらうためのフォローアップも欠かさない。その一方、以前から続けている「誕生日エステ」や「サロンエステ」などを行い、常連客を飽きさせない取り組みも並行して行う。
「エステや眉スタイリングを窓口に、新しい出会いを広げている。いかに情報発信をしていくかが重要。どのように出会いの場をつくるかを定期的に話し合っているが、ただ、売上げを伸ばすためと言って、今までうちでやってきたことからブレる戦略はとりたくない」(山本社長)
スタッフはメーカー側から顧客獲得について様々な指導を受けているため、店からは「基本的な方針を伝えるだけで十分」という山本社長の考えも不変である。毎月の新規顧客数やサンプリング数などの集計は行っているが、数字で競い合わせようとは考えていない。
最も重視するのは、数年前から始め、いまや習慣になった「朝の唱和」である。唱和にはお店のモットーが込められており、繰り返し行えばきちんとスタッフの中に意識が芽生えるそうだ。
「いつもありがとうございます」は主語を特定せず、お客、同僚、あるいは自分に対して伝えても良い。「毎日感謝しています」も同様だ。最後は「今日もお客様の笑顔を見つけて下さい」で締めくくる。
また、ビューティふたばのスタッフは自発的、能動的にお客への細やかな気配りを心掛けている。葉書によるダイレクトメールはもちろんのこと、懇意にしているお客に自分の出勤スケジュール表を送り、お客が来た時に自分がいなくてがっかりさせないようにしているスタッフもいるといい、「私が気づかないだけで、もっと他に何かしている子も沢山いる」(山本社長)。
地道な取り組みがお客を呼び戻す、
変わらない方針に女性は安心感を
景気が若干持ち直し始めた昨年後半頃から、こうした一つひとつの細やかな心遣いが実を結び、いったんは離れていたお客が再度店を訪れるようになった。山本社長によれば、昨年12月から売上げも回復の兆しを見せ、上向きに転じているという。
お店の持ち味は30分~1時間の長い接客である。毎回それを楽しみに来店するお客もいる。お目当てのスタッフがいなかったときに残念な思いをさせないために、チームで接客にあたり、「お気に入り」が不在でも満足してもらえるよう工夫している。これはメーカーの顧客ではなく、ふたばの顧客として受け入れたいというお店の強い意志の表れでもある。
お客は店の雰囲気を敏感に感じ取ることから、核になるスタッフが率先して温かい職場づくりに励んでいる。あるスタッフが病に倒れた時、異なるメーカーのスタッフ達も一緒に悲しみ、涙を流すほどの仲の良さだ。
山本社長は「スタッフに良い笑顔がなければ良い店はつくれない」と断言し、さらに「ぎすぎすした関係より、お客様が来て安心するのは温かい雰囲気がある、町のホットゾーンのようなお店」と付け加えた。
お客が戻ってきたのはスタッフの細やかな気配りが奏功したこともあるが、ビューティふたばが安心できる環境を用意していたことも少なからず関係している。
「大いなるマンネリ」と山本社長は呼ぶが、マンネリ化を嫌う男性とは異なり、環境の変化を嫌う傾向にある女性にとって、愚直に同じ方針で営業を続けるふたばはお客にとって安心できる空間となっている。安心できる環境を整備し続け、戻ってきたお客を受け入れることに重きを置いて日々努めてきたことが、いま結果となってあらわれ始めている。
内外美容を提案できる店が目標、
メンタル面を考えるのも重要な使命
全粧協関東ブロックが2010年1月24日に開催した新春セミナーで、資生堂の飯島進也氏が専門店の役割を「美の伝道者」と表現した。山本社長は「確かにこのことに間違いはない。現在の日本には、高品質の化粧品を適正価格でお客様にお届けする化粧品連鎖店販売制度があるが、まさしくこの部分がぶれてはいけない」と話す。
「高品質の化粧品を適正価格で販売することこそ我々の使命。そこに人が関わる中で、最も人の重要度が高いのが専門店。スタッフはお客様に化粧品を販売するだけではなく、美しさとは何かを提案することが使命だ。これをしっかりやっていく」
また、新春セミナーで同じく飯島氏が「美しさ提案」として、スキンケア、メークアップ提案に加え、身体の内側から美しくなる習慣も提案する「内外美容提案」を訴えた。美容食品をうまく取り入れることで、専門店の活路を見出すチャンスになるということだ。山本社長はこの「内外美容提案」にも「具体的に実行する必要がある」と賛同する。
しかし、そのためにはスキンケア・メークアップラインとインナービューティ商品を同時に紹介できるスペースの確保が必要となってくる。今後は、内外美容提案に向けた取り組みを強化しつつ、エステなどで出会いの窓口を広げ、今まで支持されてきた方針も変えずに継続していきたいとしている。
来店するお客はスタッフに愚痴をこぼすことも多い。家族や知り合いに話せないことでも、ある意味「赤の他人」であるスタッフになら話すことができるからだ。お客はアドバイスを求めているのではなく、ただ溜まったストレスを発散したくて話しをする。化粧品は心を満たしてくれるアイテムであり、それを取り扱う店はお客のストレスも受け止められる場所でなくてはならない。
「現代は何かしらの心の悩みを抱えている人が増えている。ストレスを発散できる空間として専門店があるなら、お客様のメンタルな部分も考えられなければならない。そうでないと、来ても楽しくないでしょ。無駄なことをしているという指摘もあるが、愚直にこの活動を続けていく」(山本社長)
お客にとっていつでも安心できる場所であり続けるためには、「守るべきことをしっかり守り続けることが必要」と考えさせられるインタビューであった。
この記事は週刊粧業 掲載
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